イントロダクション:データ活用の現在地と課題
社会の変化が速く不確実性が高まる現代において、素早く、再現性のある判断をするには勘や経験だけでなく、事実やデータに基づく判断が必要です。データ活用は経営判断を組織内に蓄積し、再現性のあるものにする取り組みです。
しかしデータ活用を推進しようとすると「人財」「データ」「コスト」という3つの課題に直面します。具体的には、データ活用を推進できる組織・人財の不足、データ収集はできても分析に耐えうる精度にならないというデータ面の課題、そして高額なデータ基盤構築費用に対する費用対効果の上層部に説明が困難というコスト面の課題です。
今回ご紹介するSAP Business Data Cloud(SAP BDC)のポイントは、データ活用を促進するインテリジェントアプリケーションズ、ETL開発が不要になるSAPのデータプロダクト、そしてデータ活用をERP基幹系の一環として必須と捉えるアプローチにあります。

NTTデータグループのデータ活用の取り組み
NTTデータは「Trusted Data Foundation®」という形で、システム面、人材育成、データ活用の定着化など多くのお客様のデータ活用を支援しています。多様なデータを集めてデータレイクで加工し、商品やマーケティングなどデータを必要とする利用者に使いやすい形で提供します。
しかしこうしたシステム構成を開発側から見ると、データ活用基盤の導入時に大きな課題が存在します。
1つ目の課題は「データ連携」で、データソースとなるシステムが数百に及ぶこともあり、オンプレミス、クラウド、さらには管理主体が異なるものが混在するため、調整に多大な時間を要します。
2つ目の課題は「データ加工・モデリング」で、データの粒度や関連などのへ対応がソースの量に応じて必要になります。また複数の最適なソリューションを組み合わせる「ベストオブブリード」が指定される場合が多く、機能的な制約や対応できる開発者のアサインといった課題があります。
NTTデータはこれらの課題解決として、SAPさんと共同でSAP Business Data Cloud(SAP BDC)の利用開始を発表しました。
SAP Business Data Cloud クイックレビュー
SAP BDCは、2025年に発表され、7月から東京リージョンでの使用が開始されました。SAP社にとってHANA以来の戦略ソリューションと位置付けられています。
簡単に概要を説明すると、図の下段にあるSAPおよびノンSAPのアプリケーションから生まれる多様な構造化・非構造化データを、中間にあるBDCで意味付け・関連付けし、最上段のAIがアクセスしてユーザーを支援し、さらにAIをアプリケーション層に組み込んで効率化を図ることを目指します。BDCは「アプリケーション×データ×AIの相乗効果」を重視するSAPの世界観を具現化したものです。

SAP BDCは複数のソリューションを合わせたSuites です。
既存のSAP Analytic Cloud(BI/予算計画プランニングソリューション)およびSAP Datasphere(データウェアハウス/ELTソリューション)に加えて、さらに3つの強化されたソリューションで構成されています。
①データプロダクト: SAPで生まれるすべてのデータをSAPが管理する形でBDCに運びます。リアルタイムかつ自動で連携されるため、データ連携のインターフェース検討や夜間バッチのタイミングも不要になります。2025年8月時点で120超のデータプロダクトが用意されており、日々増加しています。
②Intelligent Applications: データが整備された後、スマホにアプリを追加するように、BI機能だけでなく、その前段のデータ加工処理なども含めたアプリをワンクリックで簡単にインストールできます。
③SAP Databricks: データ分析、機械学習、LLM活用などを支援するソリューションです。BDCではSAP DatasphereとSAP Databricksは一体となって機能し、データモデルカタログ情報の共有もデータのコピーもゼロコピーで動作します。
各ソリューションの連携イメージとしては、SAPからの自動連携や機械学習用データをDatabricksに取り込み、SAPのデータをゼロコピーで直接参照し、導き出された予測結果をDatasphereに返し、それをSAP Analytic Cloudで可視化するという流れになります。
NTTデータはDatabricksにいち早く取り組み、日本で一番実績とノウハウを持っており、日本最多、日本唯一、日本No.1などさまざまな称号をいただいております。
これらのソリューションでデータ活用における主要な課題を解決・軽減できます。データ活用人財の課題はIntelligent Applicationsで解決でき、データモデリングや手間の課題はSAPデータプロダクトによりSAPマネージドで解決できます。また、費用対効果の課題については、ERPの力を最大限に活用するためにERP基幹系の一環としてBDCとAIが必須という位置づけとなります。
SAP BDCの導入パターンはシステム構成により異なります。特にサポート期限が迫るSAP BWユーザーのBDCへの移行パターンについてはぜひご相談ください。
業務ユースケース
SAP BDCは、バリューチェーン全体で分析・予測が必要なあらゆる業務に適用可能です。S/4HANAだけでなく、SAP Ariba、SuccessFactors、さらには市場統計などの非SAPデータも活用することで、あらゆる業務の予測業務の高度化を実現します。
その適用例として財務領域における期末着地見込み予測の高度化を紹介します。BDC導入前のプロセスでは、S/4HANAからCSVを出力し、Pythonで読み込み、Excelで出力するまでに2日間を要していました。BDCを導入すると、S/4HANAのデータをBDCのDatasphereに連携し、Databricks上でPython処理を実行し、その結果をAnalytic Cloudで可視化・確認します。これにより、従来の組織からの報告集約による見込み確認から、現時点の実績と過去の傾向、外部データに基づく予測へと移行します。

ここで重要なのは、「これ当たるんですか?」とか「どのくらいの精度ですか?」と聞かれることが多いのですが、精度が全てではなく、データに基づいた現状を関係者間で共有し、経営層のIR対話や現場の販売費コントロールなどに反映し、より良い判断や適切なアクションを取るための「材料」を提供することにあります。
導入時のポイント
NTTデータでは実際にSAP BDCを実機構築しつつ財務着地予測を行い、プロダクト評価を行いました。この検証では主に「基本機能の実装状況」「品質面」「運用性」「移植性」「ドキュメント・サポート」の5つの観点で評価を行っています。
今回は顧客マネージド側のオンプレミスのS/4HANAを対象として個別開発が必要なカスタムデータプロダクト、AI/ML、分析を検証対象としています。

そして下の図が最終的なSAP Analytic Cloudでの画面イメージです。実際の数値、売上や利益、販売費と計画と予測も比較しております。 SAP Databricksを使うことで SAPと非SAPデータの両方を使った予測をでき、実データのコピーなしでセキュアに実現できるということで可能性が広がりました。

主な検証結果とポイントは以下の通りです。
・基本機能の実装状況: BDC全体としてコア機能を満たし、ユーザー価値提供が可能なレベルに達しています。
SAP Databricksはネイティブ版に比べ一部機能制限がありますが、必要に応じてネイティブのDatabricksを組み合わせた設計も可能です。
・品質面:Databricksでの予測処理時間も大幅に短縮され、申し分のないものでした。
・運用面: Databricksの機能は十分なもので、既存のSAP BDPと 組み合わせることで価値提供が可能です。
・移植性:既存のPythonプログラムもほぼそのまま移植することができました。
・ドキュメント・サポート:オンプレミスS/4HANA向けのドキュメントはまだ充実していない状況でしたが、Quick Startセッションは充実しており今後の期待は大と言えます。

考察と今後
SAP BDCはCapacity Unitという単位でライセンス購入でき、全体の使用状況SAP for ME、個々の使用状況は各サービス上で確認できます。今後はSAP DatabricksとネイティブDatabricksを連携するコネクターのリリースにより、非SAPデータの活用手段も広がっていきます。
企業にとって必要なデータを有効活用するためのアーキテクチャ設計が今後の鍵となります。SAP BDCは、あらゆるデータを格納できるデータファブリック基盤としてSAP利用企業に推奨できるソリューションです。NTTデータは、引き続き業界団体やコンサル組織と連携して取り組みを推進いたします。
Appendix-座談会
千葉「ここからはNTTデータグループのSAP BDC検証事例を中心に苦労話や導入の工夫などについてそれぞれの立場からお話を伺います。まずはITマネジメント室の伊藤さんは、今回NTTデータグループの基幹システムの大規模刷新に取り組まれていますが、その立場からいかがですか」。
伊藤「私は社内の情報システム部門でグループの基幹系システムを全面刷新するDXプロジェクト「Project GAIA」を担当しています。これは硬直化した業務プロセスやシステムを変革するためのプロジェクトで、Creative、Agility、Data-Drivenをコンセプトに掲げています。最新技術を自社で活用しノウハウをお客様へ還元する「クライアントゼロ」も重要な目的です。技術面ではS/4HANAやAribaやSuccessFactorsなどのSAP製品に加え、ServiceNowやSnowflakeといった非SAP製品も積極的に採用しています。今回のBDCに関してはユーザーの立場ということになります」。
千葉「導入後の課題として、GAIAにおけるデータ活用面ではどのような点がありますか」。
伊藤「大きく2つあります。1つは対象データの拡大です。現在は主に収支に関する財務データの分析が中心ですが、今後は人事や調達などのデータにも広げ、より高度な分析を目指します。2つ目はAI活用の強化です。ユーザー自身による分析は進みましたが、今後はAI機能を活用し、予測分析やアクションを示唆するインサイトを創出できるように強化していきたいと考えています。またGAIAのコンセプトでもあるクライアントゼロの観点からは、SAPの最新ソリューションであるBDCのノウハウをしっかり蓄積してお客様に還元していくことを重視しています」。
千葉「続いてSAP事業部の里見さんには、お客様にSAPソリューションを提供するパートナーとしての立場からBDCをお客様に推奨するポイントをお聞きします」。
里見「BDCは、現行で多くの企業が利用しているSAP BWの正式な後継ソリューションであるという点が第一です。データ活用の継続性を考えると、BWユーザーにとって最優先の選択肢となります。また従来のBWの弱点であった非SAPデータの活用が容易になった点も重要です。ERPとデータ活用部分をSAPに統一することで、データ分析からAI活用、意思決定支援までをシームレスに一気通貫で実現できる点が大きな魅力だと考えています」。
千葉「SAP導入パートナーとして、今後どのようなお客様、どのように価値提供する方針ですか」。
里見「S/4HANAを利用されている企業の方を含め、規模や業界によらず全てのお客様に価値を提供したいと考えています。取り組み方としては、まずPoCを実施し、現場の課題に即した形で導入して成果を可視化し、スモールスタートから段階的にスケール展開していくことが、お客様にとってスムーズで早期に価値を感じていただける方法だと考えています」。
千葉「SAP事業部の松井さんには、技術面ではいろいろトライをいただきました。今回のBDCのPoCで特に技術面で苦労された点は何でしょうか」。
松井「大きく2つです。1つは、東京リージョンでリリースされたばかりで情報が少なく、あるべき姿が見えない中での構築でした。エラーが頻発する中で、それがやり方の問題か、システムバグかの切り分けに大変苦労しました。もう1つは、非SAP製品であるSAP Databricksがアーキテクチャに加わったことで、非常に苦労をしました」。
千葉「そうした技術的な困難を、どのように乗り越えたのでしょうか」。
松井「まず1つ目の『あるべき姿が見えてこない』という問題ですが、情報が少ない中で、各製品の分析に基づき『BDCはこうあるべきだ』という仮説を立ててアーキテクチャを整理しました。その仮説に基づき調査を進めることで、短期間で目標を達成できました。2つ目のDatabricksについては、社内のDatabricks専門組織のサポートに加え、SAP技術者とデータブリックス技術者が互いの仕組みを理解し、連携を徹底しました。日々のショートミーティングで積極的に情報交換したことが、困難を乗り越える鍵となりました」。
千葉「NTTデータグループの全体の強みを発揮し、検証・評価し、PoCにつないだことが今回の成功の大きな要因となったことが分かりました。ありがとうございました」。