Event / Seminar イベント・セミナー

揺れ動く欧州サステナビリティ規制対応の実践とデジタル化 受付終了
  • ビジネス
  • テクノロジー
  • ソリューション

NTT DATA Next Gen Future vol.54

揺れ動く欧州サステナビリティ規制対応の実践とデジタル化

  • オンライン
  • 無料

CSRD、CSDDD、CBAM、欧州電池規則などの規制強化が進む一方、2025年2月26日に公開されたオムニバス法案により一部要件の適用時期や罰則が見直されるなど、法規制の動向に足踏みも見られます。 本Webinarでは、こうした最新の改訂内容、はずせない中長期の視点、実践的な対応策を整理し、デジタル技術を活用した戦略と実行方法を90分で網羅。アーカイブ配信もございますので、気になるテーマだけでもお気軽にご参加ください。 【アジェンダ】 第一部:欧州規制最新動向とデジタル化対応策 40分 第二部:デジタル活用と規制対応の実践に向けて 40分 QA:10分

このような方におすすめ

  • CSRD、CSDDD、欧州電池規則、CBAMなど各種欧州サステナビリティ規制のご担当者様
  • サステナビリティ規制に対応したデジタル整備をご検討されている方

株式会社NTTデータ コンサルティング事業本部 会計・経営管理ユニット マネージャー 山崎 研二

会計・経営管理領域を専門とし、グローバル製造業を中心に構想立案からシステム導入~運用・定着にわたる多くのDXプロジェクトを経験。 近年は、サプライチェーン・経営管理・サステナビリティに関する課題を解決するコンサルティングビジネスをけん引する。

株式会社クニエ SCMチーム シニアマネージャー 吉岡 禎史

サプライチェーン戦略、S&OP領域を専門とし、グローバル製造業を中心に、数多くのコンサルティング実績を有する。 近年は、サプライチェーンにおけるサステナビリティー・ESG関連のコンサルティングサービスをけん引する。

セミナーレポート

第一部:欧州規制最新動向とデジタル化対応策

株式会社クニエ 吉岡 禎史 

 1.欧州法規制の潮流とオムニバス法案の影響 

2025年2月に発表されたオムニバス法案は、EUタクソノミー、CSRD、CSDDD、CBAMの一部規制の緩和や延期についての法案です。下のスライドに主な変更点をまとめました。 

日本企業のオムニバス法案への反応としては、規制緩和に対しては歓迎の声もあれば、ESG投資環境や気候目標の面から懸念の声もあります。また、2年間の猶予ができたが、その反面予見可能性が下がってリスクが増えたなどのご意見も伺っております。 

我々としては、今回の見直しにより、ESGモメンタムは一時的な減退はあるものの、根本的なESG要求そのものが弱まるわけではなく、逆に2050年のネットゼロに向けて猶予がないなかで再加速していくことになると考えています。 

Slide1.jpg

2.各規制の対応の難しさ・留意点 

CSRD 

「企業サステナビリティ報告指令」と呼ばれるもので、企業活動全体に対する制度開示です。CSRDは2年延期になったことで、準備スコープ定義が課題となります。欧州に20、30の子会社をお持ちの企業様もいらっしゃると思いますが、どこまでがCSRDの対象となるかを見極めるのも重要です。また、CSRDではダブルマテリアリティを定量・定性で説明する必要がありますが、2年延期ということで外部環境・内部環境の変化や中期計画との見直しによって、改めてマテリアリティを定義することが必要になってくるかもしれません。 

Slide2.jpg

CSDDD 

「企業サステナビリティデューデリジェンス指令」と呼ばれるもので、人権や環境などに対するリスクを単純に情報収集して開示するのではなく、それを改善するプロセスを回して結果を求めているのが特徴です。 

特に難しい点は、サプライヤーに向けて情報開示を求める必要がある点で、場合によっては契約内容の見直しの必要も出てくるかもしれません。これに関連して苦情処理メカニズム(グリーンバンスメカニズム)を設置することも必要となってきますが、長いサプライチェーンの中で、どの会社が、どの部門が苦情処理プロセスを運営するか決めていくのもかなり大変だろうと思います。 

Slide3.jpg

CBAM 

「炭素国境調整メカニズム」と呼ばれ、域外から対象の製品を輸入する際に域内でのカーボンプライス相当の炭素税を加算しないといけないというルールで、域内取引における不公平を緩和するための仕組みです。輸入者が支払うもので、輸出者つまりサプライヤーがどれだけ原産国でGHGを排出したのかを報告するものになります。  

欧州電池規則  

欧州電池規則のうち、EVなどの蓄電池におけるGHG排出量をCFPとして宣言する項目が先行して始まっています。その後バッテリーパスポートなどの細かいテーマに分かれて続いていきます。 

欧州電池規則については、DPP(デジタルプロダクトパスポート)との関連をよく質問されますがDPPは電池に関係なくすべての製品カテゴリーに一旦適用されるもので、欧州電池規則はサーキュラーエコノミーにあたって喫緊のテーマということで切り離されて先に規則化されたという経緯です。DPPは医療用テキスタイルや、鉄・アルミなどでも2027年には義務化されると言われています。 

Slide4.jpg

3.サステナビリティ活動による企業価値の向上 

規制対応は「コスト」ではなく、企業価値向上に寄与するものと捉えるべきと考えています。ESGは直接的に収支に影響しないように捉えられがちですが、非財務資本と言われる部分に関わってきます。人的、社会、自然資本といった非財務資本を含めて企業価値を見極めていくことが、株主・投資家視点でも重要だと考えています。 

 そのため、サステナビリティは攻めと守りの2方向からアプローチすることが必要です。特に「攻め」に着目すると、コストをかけてでも企業価値の向上につながる取り組みを積極的に投資しようという考え方になりますが、例えば、環境性能をアピールして価格転嫁し収益を確保する、などがあげられます。消費者もサステナビリティへの感度が高くなっており、競合との差別化にもつながるのではないかと考えています。 

加えて、今後ESGについては、政策や法律でコストオンされるケースも増えてくると考えられますので、経営管理上の考慮が必要です。また、資本面ではESGに積極的に取り組むことでESGボンドやファンドからの融資や資金調達コストの削減にもつながってくると考えております。 

Slide5.jpg

4.規制対応デジタル化に向けたアプローチ 

これまで述べてきた通り、サステナビリティ情報-非財務情報は、意思決定を支える戦略情報となっています。近年では柳モデルに代表される財務情報と非財務情報を組み合わせて相関性を見る「インパクト会計」などもトレンドですが、そのためにはデータの収集・統合が不可欠です。 

サステナビリティ情報のマネジメントのボイントとしては 

  1. HUB化: HUBとなる部門に必要な情報を上げて共有 
  1. 統合活用:共有から必要な形式で集計・二次活用 
  1. AI活用:自社情報と最新法規制情報から示唆を獲得 

があります。 

Slide6.jpg

まとめとなりますが、ESGスタンスに変化はあるものの、今後再加速していく可能性が高いと考えています。欧州規制法は2年延期となりましたが、内部・外部環境の変化に対して事前に準備をしておくことが重要です。日本企業も規制対応だけでなく、ESGを企業価値の向上としてとらえ、攻めの施策、守りの施策を取り、サステリビリティ情報を、意思決定を支える経営情報に格上げしていくことが必要だと考えています。

Slide7.jpg

第二部:デジタル活用と規制対応の実践に向けて

株式会社NTTデータ 山崎 研二 

5.デジタル化に向けた規制別のポイント 

主要な規制は影響が非常に大きく、内容も複雑であり、内容もどんどん変わっていくため、皆様も対応に苦慮しておられると思います。今後デジタル化のプロジェクトを進めるためのポイントをご説明します。 

CSRD/CSDDD 

CSRD/CSDDDでは、企業が収集すべき情報が非常に多岐にわたっており、かつ検討すべきボリュームも多いという特徴があります。次の3ステップで考えるのが有効です。 

1つ目は、デジタル化対象の情報種の選定、全社定義、標準化です。収集・集計する情報種を決定する必要があります。数字の項目であれば、GHG排出量、再エネ利用率など積み上げ式でデジタル化しやすいデータも多いです。一方で定性的な情報は各拠点や事業部横串などでどのようなデータが収集でき、どこを標準化できるかという検討が必要です。 

2つ目は、情報収集・計算やレポーティング等のプロセス概要定義です。データをどのように集め、誰が承認するかといったワークフローを定めます。どの様式でレポートし第三者認証をどう得るかという視点も重要です。 

3つ目は、ツールの選定と構築です。こうした業務フローを整理した上で、それに合ったツールや仕組みを整えることで、持続的な運用が可能になります。 

Slide8.jpg

CBAM 

続いてはCBAMです。さきほど吉岡さんから紹介があったように、CBAMは、EU域外からEU域内に輸入される製品について、排出量に合わせた炭素価格を課すという仕組みです。日本からEUに製品を輸出している企業や現地法人がある場合には、CBAMへの対応が求められます。2026年から本格開始の予定です。 

CBAMの特徴の1つが、カーボンフットプリント(CFP)の算定方法です。一般的なCFPではScope1〜3を積み上げますが、CBAMではScope3について中間製品の製造に関わる排出のみが対象です。通常のCFPより負担が軽い反面、サプライヤーから中間品の排出量を「直接排出」と「間接排出」に分けてもらう必要があり、集計プロセスにひと手間かかります。

Slide9.jpg

CBAM対応に必要な準備としては、EUが公開しているコミュニケーションテンプレート(報告テンプレート)と自社の保有データを確認します。不足があれば、どうやってサプライヤーから取得するかの方法論を検討しなければなりません。算定のプロセスではすでにCFP算定システムがある企業はそれを活用できますが、ない場合には新たに仕組みを整備する必要があります。それに加えて第三者保証をどう取得するかを検討します。 

データがそろえば、ドラフトの報告書を作成し、必要に応じてマニュアル化し、最終的にはシステム導入や改修によって効率的な運用体制を目指していきます。この一連の準備には、おおむね1~3か月を想定するのが一般的です。  

欧州電池規則 

欧州電池規則は欧州グリーンディールの一環であり、電池の製造・販売に関わる企業に対して、以下の4つのポイントを押さえておくことが必要です。 

1.CFPの開示 

2.デューデリジェンス(人権・環境リスクの確認) 

3.リサイクル材の使用比率と効率の算出 

4.ラベル表示とバッテリーパスポート(QRコードによるデータトレース) 

1のCFPについては、2026年からの開示が予定されていますので、優先して対応していく必要があります。CFP算定は手作業ではなく、経産省が進めている「バッテリートレーサビリティ・プラットフォーム(ウラノスエコシステムなど)」を活用してデータを収集する流れになります。そして電池メーカーまたはOEMがEU当局に対して申告を行い、製品にはQRコードで情報が紐付けられることで、使用者が情報をトレースできるようになります。 

Slide10.jpg

特にポイントとなるのはCFP算定方法の検討で、「下流」の輸送段階や静脈流のリサイクルデータや廃棄の算定をどうするかがポイントになってきます。また、電池規則では1次データの取得が求められるケースもあり、2次データでは対応できない部品もあります。さらに第三者保証、バッテリートレーサビリティプラットフォームとの連携も進めておく必要もあります。 

電池規則は英語での情報が多く、内容の最新版の入手が難しい点も実務上のハードルになります。そこで、欧州電池規則に関するアセスメントを実施し、自社に関係する論点を丁寧に精査し、現時点で不十分な点をどう進めていけばいいかを見極めていくことが重要と考えています。 

第三者保証 

CSRDCSDDD、CBAM、電池規則では第三者保証が重要な要件となっています。課題として、検証員の不足や製品個別のGHG保証取得では対象製品数の増加に伴う費用や工数の増大などが挙げられます。 

そこで現時点では、製品ごとの個別対応でなく、低コストで準備が進められる包括的な算定ルールへの保証取得も現実的な選択肢です。これは製品個別の認証ではないものの、コストを抑えつつ体制を整える上で有効です。たとえば、SuMPO様のInternal-PCR(製品カテゴリールール)制度などがあります。 

また、第三者保証を進める上で自社の既存のCFP算定ルールと外部の第三者保証とのギャップにも注意が必要です。これまで自社で対象外とされていたプロセスも、保証取得の際には標準的に推定されるシナリオをベースに検討する必要があります。  

以上の通り、各社様、欧州規制の対応には苦慮しているところですが、スモールスタートで進められる部分から着手し、特に不透明な第三者保証については、早めの検討をされるのが望まれます。 

6.デジタルプラットフォームの考え方 

サステナビリティに関する規制対応のデジタルプラットフォーム構築にあたっては、規制を単にネガティブとせず、ホジティブな影響として捉えていくことも必要です。 

企業の対応方針は、コスト最小化を重視する「守り型」、守りと攻めの両面を考慮する「バランス型」、ESG経営を推進する「成果重視型」の3つに大別されます。特に多くの企業は前者2つの方針を採用していると考えています。例えばGHG対応では、企業単位や製品単位での各種報告が「守り」に該当し、カーボンクレジットや排出権として活用していくのが「攻め」の取り組みです。「攻め」としてはCFP算定の自動化、コスト面のインパクト試算、資源循環トレーサビリティの導入などがあります。  

一方で守りの対応には既存のパッケージ製品が活用可能ですが、攻めの施策では既存システムとのインテグレーションやスクラッチ開発が必要になるため、コストも大きくなります。GHGの例では、サプライヤーからのデータ収集、報告、第三者保証取得など一連のプロセスをカバーする必要がありますが、すべての機能をカバーできるシステムは現時点では存在しません。 

そこで弊社ではお客様と構想策定から一緒になって、規制の波に対応しながらコストをミニマイズして「攻め」と「守り」を両立してきました。たとえばある総合エネルギーメーカー様ではCFPの算定と組織別のGHGの基盤を統合し、各種シミュレーションの実装に移行しました。別の素材化学メーカー様では、既存パッケージに加えて製品単位の対応をPOCから始め、徐々に範囲を拡大してCFPや規制や第三者保証システムへと拡大していきました。いずれも段階的な導入と自社戦略に則ったシステム構築が鍵となります。 

Slide11.jpg

7.システムデモンストレーション 

今回は、Anaplanというクラウド型の計画・分析ツールを使って、CFP算定、レポート対応、財務インパクトのシミュレーションまで、3つのステップに分けてご紹介します。 

Slide12.jpg

まず1つ目はCFPの算定では、各プロセスの活動量や排出係数、製品ごとのBOMの情報、どこの部材を調達してどう輸送したかといった商流全体の情報をもとに、どれだけ温室効果ガスが排出されているかを算定します。これによって、Scope別のCFP算定が可能になるというのがAnaplanの特長です。 

2つ目は、そのデータを活用したレポートの作成です。CBAM対応で求められるレポートにも対応しています。排出量データをベースに、テンプレートに沿った形で自動的に数値を取り込むことができます。これにより、手作業での報告作業を大きく削減できます。 

3つ目は財務との連携です。Anaplan上では、製品ごとの利益とCFPをかけ合わせて、どの製品が「儲かっていて、しかも環境負荷が低いか」といった分析ができます。たとえば、炭素税が導入された場合、その影響を売上やコストにどう反映するか、原料をエコなものに切り替えた場合のコスト増と排出量減のバランスなど、複数のシナリオをもとにシミュレーションが可能です。調達先を変更した場合の炭素税削減効果とコスト増加のトレードオフも定量的に比較できるため、環境と収益の両面から合理的な意思決定を支援します。

Slide13.jpg

8.まとめ 

NTTデータはグループとしてグリーンに関するコンサルティングを幅広く支援しています。ESGグランドデザインやGHG排出量の可視化、CFP領域に強みがあり、CSRDなどESG関連の規制対応はもちろん、GHG削減や人権デューデリジェンス、サプライチェーンリスクの管理まで対応しています。 

ここ数年のサステナブームはやや落ち着き、企業もより現実的な視点でサステナビリティに向き合い始めています。一時的に優先度が下がったように見えても、長期的に取り組み続けることが企業の持続的な成長を確実に後押しすると私たちは考えています。 

私たちもデジタルとコンサルの両面から、規制対応だけでなく、お客様の中長期的なサステナビリティの実現に向けてパートナーとして伴走させていただきたいと考えております。 

Slide14.jpg

Event to be held

近日開催予定のセミナー

Related events

過去のセミナー

セミナーレポート一覧へ