欧州市場におけるSAF最新動向-背景
Johanna Pérez Alvins
空港におけるSAFの比率の目標値を設定するReFuelEU航空規則では、2025年に2% 2030年までに6%という目標を掲げています。2035年には20%、その後5年ごとに混合比率が高まり、2050年には70%に達する予定です。一方で合成SAF、合成燃料についても2040年に10%、そして15%、35%へと高まっていく計画です。つまり次の10年で需要が高まると同時に、新たな合成SAFの開発も求められていくことになります。

欧州市場におけるSAF最新動向-政策・規制動向
欧州におけるSAF規制は、Fit for 55の枠組みの中に位置づけられています。Fit for 55は2030年までに温室効果ガスの排出を55%削減することを目指すものです。市場ベースの規制枠組みとしては、さきほど紹介したCORSIAやEU ETS制度などがあります。
こうしたEUの枠組みやCORSIAに準拠する上で鍵となるのは持続可能性認証基準で、ISCC、RSBという重要な基準があって多くの認証を発行しています。ユーロコントロールおよびECACでは、各国での規制措置の状況や加盟国の空港でのSAFの状況を示すインタラクティブなマップを作成しています。

https://www.eurocontrol.int/article/sustainable-aviation-fuels-saf-europe-eurocontrol-and-ecac-cooperate-saf-map
政策・規制面での今後の展開として注目すべき点は2つあります。1つは2025年の5月から対応が始まったもので、ISCC、RSBのスタンダードに加えて、2023年に導入されたREDⅢ(Renewable Energy Directive Ⅲ)に基づく新たな持続可能性の要件が求められるということです。もう1つはReFuelEUについても新たな制度を検討中です。こちらには先ほど説明したBook and Claim方式を含むSAFの供給や購入の証明書の取引制度が含まれます。
欧州市場におけるSAF最新動向-マーケット動向
今後、世界的およびEU内でSAFに関してどのような資金調達や投資が求められるのか、その際のリスク除去の重要性について説明します。今、公的資金を投入して新たなインフラの開発、イノベーションの創出、研究開発が進められています。また新たな合成燃料関連の開発にも積極的に資金が投入されています。
EU内でのSAFの需給状況は ReFuelEU規制によって影響を受けます。SAFに関しては、先進的なバイオ燃料、合成燃料など様々な開発が行われているものの、現在のキャパシティ、生産能力、生産設備では、2025年の需要は満たすことができますが、2030年の需要には対応できません。そのため現在進行中のパイプラインプロジェクトを確実に実現することが求められています。EUのパイプラインプロジェクトは2030年まで25件があり、オランダ、フィンランド、スウェーデンに集中しています。25のプラントのうち15プラントでHEFA技術(廃食用油・獣脂・非・可食植物油などの脂肪酸エステルを水素化処理することでSAFを生産するもの)が使われており、SAFの86%は廃食用油から生産されることになります。したがって短期的にはSAFの供給課題は廃食用油の確保に直結します。
EUでは廃食用油は航空燃料だけでなく、その他のバイオ燃料の生産にも使用されています。したがって現在のEUでは十分な量の廃食用油を確保することはできていません。EU全体の商業セクターからの収集率は75%にとどまっています。現時点ではEU加盟国のうちわずか4か国のみが十分な廃食用油を収集できている状況です。

現在、欧州は廃食用油の大部分をアジアから輸入しています。その輸入率は80%に達しています。SAFの生産コストは輸入コストが加わることで高くなってしまいますし、アジアからの輸送過程で温室効果ガスを排出してしまいます。
またSAFの価格動向ですが、従来の航空燃料と比べて現在は3倍から10倍の水準にあります。また原材料の価格変動もSAFの価格に影響を与えており、これらの課題がSAFの普及に大きな障壁となっています。しかし今後、規模の経済が確保され、市場が成熟し、インセンティブ提供などの措置を通じて、長期的には価格の低下が見込まれます。
欧州市場におけるSAF最新動向-運用・技術動向
ReFuelEU規則は2025年から発効されていますが、2025年から2035年までは移行期間と位置づけられています。今年からEUのSAFサプライチェーンは活性化します。
バリューチェーンが活性化することで2030年にはSAF生産が進展し、欧州における供給の60%はHEFA技術またはAlcohol to Jet(アルコールを原料としてジェット燃料に変換する技術)をベースとしたSAF になると予想されています。SAFには合成燃料やバイオベースの燃料など多様な生産経路があり、今後も様々な種類が加速度的に進展していくと見込まれています。しかし必要とされるSAFの需要を満たすためには、今後生産能力を拡大して行く必要があります。
認証体制にも課題があります。バリューチェーンに参画するすべてのプレーヤー間で情報共有ができるような情報システムの構築が必要です。EU規制のもとで確実な認証を担保するためには、持続可能性証明やプロセスの証明ができるようなシステムも必要です。
そしてリスクの検討もまた重要です。EU諸国の中には廃食用油の収集が全く進んでいないところもあります。そして大半は廃食用油を輸入しているため輸入元となる生産国における不正の懸念もあります。こうした状況により、認証体制や規制の厳格化が求められることになり、マーケットへの参入プレーヤーや供給業者が限定されることにもなりかねません。さらには最近起きている政策面での方向転換や方針転換は投資判断やオペレーション上のリスクとなります。
もちろんたくさんの機会も存在します。廃食用油市場の成熟、認証要件に対する理解、バリューチェーン全体のトレーサビリティを確保するための技術面の進歩により不正を防止し、持続可能性認証を担保できるなど、機会も増えています。
欧州市場におけるSAF最新動向-まとめ
政策・規制においては、今後も明確な政策や規制の基準が求められますし、SAFのプレミアム価格に対するインセンティブや、SAF生産のコスト低減への取り組みなども必要になってきます。
市場ダイナミクスの視点からも、継続したSAFの研究開発に対する投資は必要です。規制に基づく様々な生産方式についても引き続き投資が求められています。これらの投資を促進するには、収益保証の仕組みや、投資家が投資しやすい確実性を提供する必要があります。インフラ整備の継続も重要です。
運用や技術面では地域レベルのSAF供給戦略での連携が重要です。SAFの特性の透明性を高め、トレーサビリティを確保した形で提供することが求められます。また長期のSAF契約を結び、旅客や乗客の啓蒙を行うことも必要です。