メタバースの現在地
Gartnerのハイプサイクルにおいて、メタバースは数年前のブームの際には期待のピークの山にいたのですが、2024年には幻滅期の底を過ぎたあたりを迎えています。今後は一般普及のフェーズに入ることが期待されています。ユーザー層の面から見ると、現在メタバースはイノベーターとアーリーアダプター層というテクノロジーに敏感な層に広がっており、大きなマジョリティに普及するためには「キャズム」と呼ばれる深い溝を超える必要があります。
市場からはメタバースは依然として魅力的な市場と見られており、2030年までの急成長が予測されています。テクノロジー面では、普及の課題の1つであるデバイスについてはAppleのVision ProやMeta社の戦略的価格のデバイス投入、ARグラスOrionの開発などが進展しています。メタバースやARを含む「空間コンピューティング」という言葉も生まれています。また生成AIやweb3といった新しい先端テクノロジーが注目されており、メタバースと融合することで進化が加速し、キャズムを越えていくことが期待されています。
実際のビジネスにおけるメタバースの活用には以下の3つのユースケースがあります。
- 顧客体験の変革:バーチャルイベントやバーチャル観光などの新しい価値の体験の提供
- バリューチェーンの変革:スマートファクトリーやスマートシティなど、既存の工場や都市のアップデート
- 従業員体験の変革:バーチャルワークプレイスやバーチャルトレーニングなど、新しい仕組みの活用
またユーザー目線ではバーチャル世界のSNSで日常の一部を過ごす方も少しずつ増えてきています。

メタバースの課題 ~誰もいないメタバース~
こうした状況のなか、現在のメタバースの課題として「誰もいないメタバース」をあげることができます。
バーチャルイベントをしてみたが単発で終わってしまったり、メタバースで観光促進しようとしたが過疎化して廃墟のようになってしまったりと、企業の方もユーザーの方も、誰もいないメタバースについて課題を感じているのではないでしょうか。
現在のユーザー数の少ない状況では闇雲にメタバースの空間、箱を作っただけではユーザーは来てくれません。一時的に人が集まってもユーザー体験が乏しいメタバース空間は、ユーザーが定着せず、過疎化してしまいます。この問題を解決するためには、ユーザー体験をデザインすることが重要です。
たとえ面白そうなメタバースがあったとしても、1人で入って体験してみると案外つまらなく感じ、それっきりでリピートしないということを経験したことがある人は多いのではないでしょうか。これはメタバースで1人ぼっちになってしまう「メタぼっち問題」と呼ばれています。

解決策の紹介「空間コンピューティング アイデア創発プログラム」
こうしたメタバースの過疎化を防ぐための解決策として「空間コンピューティング アイデア創発プログラム」を紹介します。私の所属するデジタルテクノロジーグループは、メタバースおよび空間コンピューティングの領域では、空間コンピューティング アイデア創発プログラムとしてビジネステーマの検討、ユースケースの作成に有用な勉強会やワークショップの提供、アイデアを元に実際に動くものをクイックに開発するクイックメタバースプロトタイピングといったコンテンツを用意しています。このプログラムでビジネスアイデアの創発からサービス化に向けた具体的なプロジェクトの実行までをトータルで支援します。

事例紹介
アイデア創発プログラムの取り組みとして、島田掛川信用金庫様との事例をご紹介します。2024年5月から2ヶ月、島田掛川信用金庫様のビジネスにおけるメタバースなどの空間コンピューティングの活用について、アイデア創発プログラムを用いて共同で検討しました。島田掛川信用金庫様が持つ信用金庫業界や業務の知見と、私たちNTTデータが保有するメタバースやAR・VRなど空間コンピューティングの技術やノウハウを活用して、地域社会や信用金庫業界の課題解決を目指したものです。
※信用金庫業界向け、メタバースなど空間コンピューティング活用の共同検討を開始
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/051603/
島田掛川信用金庫様からはメンバー5名、リーダー1名という構成で参加いただきました。
ステップとしては、まずメタバース勉強会を行い、メンバー間のメタバースのイメージの粒度を合わせました。そしてメタバースが実現する価値やメタバースが事業に与えるインパクトについて、事例を交えて理解していただきました。
次にアイデア創発ワークショップでは、ワークシートをもとに、メタバースを用いて目指す姿、活用する業務シーンと使い方、変革後の業務シーンを整理しました。そして発表、質問、ディスカッションを繰り返してアイデアをブラッシュアップしました。
並行してクイックメタバースプロトタイピングを行いました。これはアイデアに必要なテクノロジーを要素ごとに小さくプロトタイプを作り、デモの体験とアイデアの検討を行うものです。
実際にプロトタイピングした「地域でのバーチャル創業」というアイデアは、地方で空き家カフェを開きたいといった顧客に、メタバースで町並みを俯瞰して空き家を探し、町並みの雰囲気を感じ、店舗レイアウトをシミュレーションすることができます。コストや売上のシミュレーションにより信用金庫としても融資計画のインプットを得ることができます。このような体験を、信金の担当者とお店を開店したいユーザーが一緒に検討することによって成功に導くことができると考えております。

本日のセミナーのまとめとして、お伝えしたいことは3点です。
- メタバースの現在地は、デバイスの進化、生成AI、web3等の先端テクノロジーと合わさってきており、今後普及していく見込み
- しかし、現在の課題として「誰もいないメタバース」を作ってしまうことが多い
- この課題を解決するには、使われる体験をデザインすることが重要であり、「空間コンピューティング アイデア創発プログラム」のような取り組みが有効
来るメタバース社会に備えて、メタバースの使われる体験をデザインできるようにしましょう。