実際にNTTデータが取り組んできた事例を、ある旅行会社さんを題材にした顧客体験を例に説明させていただきます。ここでの顧客体験というのは、旅行を計画し、実際に旅行をして、旅行の余韻まで楽しむというものです。
旅行の計画を立てるフェーズでは、最適な情報をタイムリーに提供することがユーザーの顧客体験向上につながるとします。では最適な情報をタイムリーに提供するとはどんな顧客体験なのでしょうか。例えば30代会社員女性がターゲットだとしてみます。最近仕事が忙しく疲れを解消するようなグッズを購入したとすると、翌日出勤中にLINEで「お疲れではありませんか、2泊3日の癒し旅に行きませんか」というメッセージが魅力的な写真とともに届きます。LINEから旅行予約サイトに遷移すると、自分の好みに合ったプランがいろいろ表示され、その中からホテルを選んで友人と楽しく旅行の計画を練る。そんな顧客体験が考えられます。

このようなToBeの顧客体験をデータ×テクノロジーでどう実現すればいいかですが、簡単に言うとデータに基づいて顧客戦略を立て、カスタマージャーニーの設計・検証のサイクルを回すということになります。
具体的にはデータに基づいて「顧客戦略」を立てます。自社顧客を可視化やクラスタリングによってセグメント化し、各層の遷移や成長ルートを明確化して、ターゲットを、例えば20-30代女性のリピート利用が課題などと定義します。
次に顧客像を推定してカスタマージャーニーや施策を設計します。例えばAsIs では興味がない時に通知が来るのでアプローチを受けてもらえないとすれば、ToBeの顧客体験では疲れた頃に癒やされる体験とともにアプローチすることを考えます。
設計した施策の実行で各タッチポイントでの実データや定性的な反応データをアンケートなどで蓄積し、顧客の反応から施策内容や顧客体験を評価し、必要に応じてターゲットセグメントのさらなる細分化やカスタマージャーニーの設計などを実施していきます。このように各反応をデータで検証しながらサイクルを回していくことで、よりターゲットのニーズに沿った顧客体験の提供が可能になっていくと思います。
弊社では大手インフラ企業様、金融系企業様ほかさまざまな業界で、このようにデータに基づく顧客戦略の策定をご支援しております。
とはいえ、実際に取組みを進めるうえで、さまざまな課題が出てきます。
例えば、1つ目はそもそも自社が注力すべき顧客像について社内に明確な定義がないというものです。こちらについてはパーパスやビジネス方針から目指す顧客像の仮説を定義し、規模や収益性をデータに基づいて見える化をしてデータに基づいて関係者と合意を取りながら推進しています。
2つ目は各顧客や顧客セグメントごとの収益性が算出・分析できていないというものです。これに対しては勘定項目や費用データを活用して各顧客へ分配することで顧客セグメントのコストを推定するというご支援をさせていただきました。
3つ目は顧客像や行動を明確化するための必要なデータが足りていないというものです。これに対しては顧客戦略活用を踏まえたデータ収集や蓄積プランの策定、顧客データの活用や拡張を可能にする360°顧客DNAの構築といったテーマでご支援をさせていただきました。

いまご紹介した360°顧客DNAについて大手インフラ企業様では予測モデルを活用して、顧客のライフスタイル、好み、施策反応率の推定を行いOne to Oneでの顧客対応を実現されています。施策結果や各タッチポイントでの反応をフィードバックすることで予測モデルの推定が精緻化されるサイクルを実現しています。
また昨今、生成AIの活用も盛り上がっています。例えば旅行予約サイトで旅行を選ぶ時、AIチャットポットと楽しく会話しながら旅行プランを提案したら楽しい顧客体験になるのではないか、ということで実際の旅行業界のお客様に、自然な会話に基づいて旅行プランを提案するAIを開発して実用まで至った事例もございます。NTTデータでは生成AIのアイディエーションから実際にトライして定着化するまでの、一連の支援をさせていただいております。
これまでBtoC での事例を紹介してきましたが、BtoB企業様ではお客様社内のステークホルダーが多岐に渡ったり、契約前のコミュニケーションのリードタイムが長くなったりして、社内業務がより複雑化するケースもあるかと思います。ここではBtoBで顧客体験を作っていくうえでよくある課題、顧客体験の実現・提供を妨げる4つの壁と、弊社の取り組みを紹介します。
1つ目は組織活動の壁です。これはお客様との接点の全体像が見えにくく、カスタマージャーニーが分断してしまっているケースです。普段異なるミッションや目標で活動している組織のアイディア統合は、さまざまなしがらみや責任によって難しさが生じます。支援した事例では、私たちが第三者として介入し、組織横断での一貫性のある顧客体験を関連組織が集まって目指すCXを議論し、関与する全員が参照できるようなグランドデザインを作成しました。
2つ目はお客様と自社の、例えば営業担当者とのコミュニケーションの壁です。これはお客様の不満をうまく拾えていないといったケースがあるかと思います。弊社では顧客フィードバックデータの収集を体系的に設計し、自社サービスの体験に影響度の高い主要素を特定することで、CX改善に優先的に手を打つべき課題を特定し、改善アクションを図っています。
3つ目はテクノロジーを導入したものの業務で使いこなせていないという、人とシステムの壁です。使いこなせない結果、顧客体験がきちんと提供できていないケースです。例えば営業部門にさまざまなテクノロジーを導入したものの、バラバラに検討導入してしまったためうまく使いこなせず顧客の応対に手間取っていたという案件がありました。顧客体験を考えるうえでは、実際のお客様と向き合っておられる営業現場の負担をいかに減らすかがポイントとなってきます。このケースではツール類の現状を正しく整理したうえで、できるだけ現場の負担が少なくなるように現場のテクノロジーを扱いやすくすることで、お客様対応の質を上げていくことができました。
そして4つ目は社内システムのデータが使いづらいというデータの壁です。これは顧客データに不備があったりして使えない、もしくは使いにくいといったケースです。事例では、顧客データが組織、システム毎に分散している。顧客を識別するようなIDが紐づけられておらず、データの品質が悪くて活用できない。また自分たちのデータなのに社内でデータを探すのに時間がかかるという問題が起きていました。データを蓄積して活用するためのデータ活用基盤の最適化に向けたグランドデザインや、データの品質向上を優先領域と位置づけて取り組みました。

CXという大きなテーマに取り組むにあたっては、多くの組織や部門を巻き込んで改革を進めていく必要があります。しかしトップダウンで強制的に改革を実行するというのは、部門間の温度差や、現場がついてこられないケースもあって難しい場合があります。そこで我々はまずは大きくざっくりと構想策定や方針を関係者と合意したうえで、変革テーマを小さく区切ってクイックにスタートさせ、そして小さく成果を創出することで、新しいことに挑戦してみようという関係部署の仲間づくりと改善サイクルを拡大していくようなアプローチが有用だと考えています。

このような取り組みや進め方で我々は日本企業のCX変革を推進できればと考えております。本日の内容が皆様の今後の取り組みのヒントになりましたら幸いです。