ENEOS株式会社 カーボンニュートラル戦略部 兼 経営企画部
宇賀神 拓也氏
ENEOSグループのカーボンニュートラル基本計画
ENEOS株式会社の宇賀神と申します。本日はENEOSがやっておりますAnaplanを活用したGHG排出量とカーボンフットプリント算定管理システムの取り組みについてご紹介します。ENEOSはグループの中でも温室効果ガス排出量の大部分を占めています。中東などから原油をタンカーで輸入、これを国内9拠点の製油所で精製、ガソリン等の燃料油やパラキシレン等の石油化学品を製造、それらをカービスステーション等で販売を行う事業を行っています。
ENEOSグループ はカーボンニュートラル基本計画として、「エネルギー・素材の安定供給」という社会的責任に加え、「カーボンニュートラル社会の実現」という新しい社会的責任の両方を全うするという長期ビジョンを掲げています。
しかし現状、当社が供給する一次エネルギーは国内の約15%、温室効果ガス排出量はScope1,2,3の合計で約2.1億トンとなり、これは国内のCO2総排出量の約2割弱にのぼります。そこでENEOSグループのカーボンニュートラル指針として、当社の温室効果ガス削減を進めるとともに、社会の温室効果ガス排出削減に貢献するため、「エネルギートランジション」と「サーキュラーエコノミー」を推進するということを掲げています。
温室効果ガス削減については将来の炭素価格上昇に対する備えとして、2040年のカーボンニュートラルに向けて中間目標として2030年に46%減を目標にしています。社会の温室効果ガス排出削減貢献については、カーボンニュートラルを将来の事業の柱にすることを目指して、エネルギートランジションやサーキュラーエコノミーを推進していくことを掲げています。
当社の温室効果ガス排出量の具体的な数値を見てみますと、2013年に当社のCO2排出量は3600万トンありました。2040年までに燃料油需要が半減することを踏まえても、2030年に2300万トン、2040年に1900万トンのCO2排出量が見込まれています。したがって2030年に46%減を達成するにはさらに400万トン、2040年のカーボンニュートラル達成には1900万トンものCO2排出抑制やオフセットが必要になります。
そのための施策として、当社の温室効果ガス排出削減では、製造や事業の効率化を通じた温室効果ガスの排出抑制、CCSと呼ばれるCO2を回収して地中に埋める技術による削減、森林吸収などの手法で大気から直接回収という3つの手法で取り組んでいます。
社会の温室効果ガス排出削減としては、エネルギー分野では従来の化石燃料から水素・カーボンニュートラル燃料・再生可能エネルギー等へのエネルギートランジションを推進し、リサイクルやシェアリングといったサーキュラーエコノミーの推進や、削減貢献につながる製品の供給拡大を行っていきます。
そこで当社が目指すエネルギーの安定供給とカーボンニュートラル社会の両立を適切に表現する指標として、カーボンインテンシティ(CI)と呼ばれるエネルギー供給あたりのCO2排出量の目標を設定しました。従来の石油販売業のCI値はおよそ90程度ですが、CO2フリー水素、カーボンニュートラル燃料、再生可能エネルギー等のCI値の低いエネルギー供給の拡大により、2040年までにCI値を44まで半減するという定量目標を掲げています。
このように削減量をきちんと数値目標を置いて管理していくうえで、CO2の見える化はたいへん重要な要素です。
ENEOSデジタル戦略
GHGの見える化は当社のDXとも深く関わっています。ENEOSのデジタル戦略は、長期ビジョン実現に向けて3本柱でDX推進を掲げています。1つ目が基盤事業の徹底的な最適化である「DX Core」 、2つ目が成長事業の創出と収益拡大に向けた 「DX Next」、そして3つ目の柱として「カーボンニュートラルに向けたDX」が近年加わりました。これはデジタルの力を活用してエネルギートランジションを加速するものです。
GHGの見える化は、当社のカーボンニュートラルの取り組みとデジタル戦略の流れを受けた取り組みという位置づけになっています。
GHG見える化の取り組み~GHG/CFP データの可視化・分析システム構築~
当社および社会のGHG削減には排出量を可視化したうえで分析し、削減のアクションにつなげていく必要があります。
当社が排出するCO2 の見える化はカーボンアカウンティングにより、製油所や本社・グループ会社などの拠点単位のCO2排出量をタイムリーに集計管理しています。もう1つの当社の製品が排出するCO2、 いわゆるカーボンフットプリント(CFP) と呼ばれるものに関しては、当社の製品の原料調達から生産までに排出されたCO2を製品ごとに算定し、製品のCO2負荷やバイオ原料などに活用することでどのくらいCO2を削減できるのかを見える化するものです。
カーボンアカウントに関しては、すでに各国では排出量取引の動きが加速しており、日本においても昨年度よりGX-ETS(排出量取引制度)が開始されており、当社もそれに参画しています。排出枠の超過分についてはGHGの排出がコストとなるためその管理が必要です。これまで当社ではGHGの集計は法定報告などのため年に1回のみでした。そして膨大なデータの集計やチェックや報告書資料の作成に多大な労力を要しており効率化が課題となっていました。そしてカーボンニュートラル基本計画達成やGX-ETSへの対応を適切に行うためには、タイムリーに排出量の予算と実績を管理する必要がありました。
そこでNTTデータさんと、Anaplanというシステムを活用して「守り」と「攻め」の両面からそれらの課題解決に取り組んでいます。
守りの面は、GHG排出量の実績集計・報告の大幅な効率化です。当社グループは製油所をはじめ100を超える拠点があり、従来拠点ごとにエクセルでデータ作成し、これを手作業で集計して、法定報告、サステナビリティレポートなど10を超える報告書の作成を行ってきました。これらの一連の作業を、過去実績を含めてシステム化し、予算と実績の管理を概算で計算可能にすることにより将来的に合計で1万6000時間の業務効率化が期待されています。
カーボンフットプリントの取り組みですが、特に欧州においてCFPの算定開示が求められるようになってきており、当社にも素材や潤滑油などのお客様からCFP の開示要求が来ています。これまで石油業界では製油所の実データを活用してCFPを算定するロジック やCFP算定システムの導入という前例はありませんでした。そこでシステムを活用し、製油所の実データを使用してCFPの算定を行い、お客様に提供しています。製油所の実データを使用した算定としては石油業界初と考えております。
また効率的なCFP低減施策を検討できるようにして、 低CFP製品の価値の見える化、環境価値の訴求、販売促進といったビジネス機会創出につなげていくことがあげられます。
システム化にあたっては石油製品の製造フローの複雑さが課題となりました。一般に装置Aから出た製品や装置BやCで処理していくのですが、例えば物によっては装置CからBに戻るといった中間品もあります。また製造品であるC重油を社内で消費して製造した電気や蒸気を社内装置の運転に使うこともあり、あるいは社外に販売するというビジネスも行っています。実際には数十の装置が複雑に入り組んでおり、循環計算がさまざまなところで発生します。
こうした複雑なプロセスで製品のCFPを算定するには、原料が持つCO2負荷と製造工程のCO2負荷を、適切に各製品のCFPとして割り当てていく必要があります。CFPに関する各種ガイドラインを参照したり、この分野で知見を有するウェイストボックス社のレビューを受けたりしながら、製品CPF算定ロジックを構築することができました。算定・結果を検証したうえでニーズの高い製品から順次CFPの提供を開始しています。
CFPの攻めの取り組みとしては、CFP算定をビジネス機会として捉え、効率的なCFPの低減検討が可能なシステムを構築しました。例えばCFPの合計の他、原料、加熱炉、電力、蒸気由来といったCFPの内訳も把握可能です。さらに装置ごとのCO2負荷量を把握できるようにしています。
CFPに関心のあるお客様は、CFPの提示だけではなく「CFPを下げてほしい」「下げたうえでオフセットしてほしい」というニーズもあります。それを踏まえてどの設備の省エネ効率を改善すべきか、どの設備に再エネ証書を付与すべきか、バイオ原料などを導入するとどのくらいCFP削減できるのかを見える化し、さらにそのコストもあわせて検討可能にすることで、お客様に低CFP製品の価値訴求や販売機会拡大を図っていきたいと考えています。
こうした取り組みを通じてお客様におけるCFPの把握、効率的な削減、さらにはオフセット製品導入などの取り組み加速に貢献していきたいと考えています。