本講演で取り扱う技術領域とその課題、今後の可能性
私が所属しているデジタルテクノロジーディレクターグループというのは、DX推進をリードする共創パートナーと自らを位置づけています。NTTデータが蓄積する国内海外の最新の技術を活用することでお客様と共にDXの共創に取り組んでおります。
今回はxR技術、そのなかでもメタバースを取り扱います。メタバースというのは、仮想世界に何らかの手段で参加して視覚や干渉といった体験が可能な世界観のことです。メタバースは市場としては依然として魅力的な領域です。最近の話題では、Apple社がVision Proを発表し注目を浴びているようにデバイスを含めた関連技術もめざましい進歩を遂げています。
メタバースは大きく3つの技術で構成されています。
①メタバースを利用するためのサービス基盤や仕組み、プラットフォーム
②メタバース自体を開発するための開発エンジン領域
③メタバースの拡張・接続技術
①のプラットフォーム領域では今後はブロックチェーン、暗号資産、NFTといったWeb3.0関連の技術がメタバースと統合され、仮想経済圏の形成が加速していくことが予測されています。また技術の進歩により体験のリアルさが増していき、これまでのエンタメ領域から教育や医療といった分野に利用拡大していくでしょう。
②のメタバースの開発エンジン領域では、昨今話題の生成AI、空間モデリングなどの発展により、メタバースの開発がより効率的になっていき、誰でもメタバース空間が開発できるような未来になっていくのではないかと考えています。 そしてデバイス面ではデスクトップ、モバイル、VR端末といったいろんなプラットフォームでより広い範囲のユーザーが今後メタバースに参加できるようになっていきます。
③のメタバースの拡張・接続技術の領域では、アバターの言語や感情理解や再現技術の向上により、空間でのコミュニケーションは高度化し、言語を画像、動画、3次元形状など異なるデータとして統合する「マルチモーダル化」が進んでいきます。そして人が何を思い、考え、感じ、発言しているのかをシステム側が解像度高く理解できるようになっていきます。空間上のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と実際の人間と同じようにコミュニケーションが取れる世界が実現していくと考えています。
デバイス関連ではデバイスの軽量化や身体との同一化が進み、現実世界では物理的に介入できない場所や入手できない情報を取得するといった動きが、さまざまな業界ですでに始まっています。xR/VRデバイスへの技術投資も現状伸びています。超解像技術などにより没入感も向上し、現実と間違えるほどのリアルな視覚体験も今後は可能になっていくでしょう。
改めて、メタバースがもたらす価値とは?
こうやってご紹介するだけで、ワクワクする未来が待っていそうな気がしてきます。ではこのワクワク感とは何か?メタバースの価値とは何かを改めて考えてみたいと思います。
メタバースの本質的な価値は2つあって、1つが「制約からの解放」、もう1つが「新たな体験の実現」だと考えています。そしてメタバースの本質的な価値を活かして、どのようなユースケースがあるか我々なりに5つに分類してみました。
①メタバース的な空間演出・合成②新たな表現・デジタルアート③高い臨場感・没入感によるリアルの高精度な再現④リアルでは経験できない行動・体験⑤参加者の嗜好・行動を理解した最適な体験の提供の5つです。
この中で「参加者の嗜好・行動を理解した最適な体験」の提供に、我々チームは着目して活動しています。これはメタバース上でのユーザーのデータに基づいて、ユーザーのニーズや課題を分析し、最適なサービスを最適なタイミングで提供するというものです。現実世界ではこうしたユースケースは多数ありますが、メタバースと連携したケースは現状ではほとんどありません。我々はデータ活用とメタバースを組み合わせた領域に大きな可能性と魅力を感じており、その実現に向けて活動をしています。
メタバース×データ活用により我々が目指す世界観
次にメタバース×データ活用によってもたらされる参加者の嗜好・行動を理解した最適な体験とはどんなものかを紹介します。
まずメタバースで発生するあらゆる情報はシステムで取り扱えるデータとして取得できます。例えば現実世界ではデータとして取得の難しい目線の動きや感情表現などです。こうしたデータを分析・活用していくことで、参加者の嗜好や行動を現実世界以上に理解することができ、これを活用すれば最適な体験をもたらすことができるのではないかというのが世界観のイメージになっています。
例えばユーザーがメタバースで買い物をした時、ユーザーが何を持って何を見て何を感じて購買行動に至ったのかが、現実世界以上の密度で把握でき、それを活用すれば空間自体がユーザーにとって心地よい空間になるという究極のマンツーマンマーケティングが実現できるのではないかと思っています。
こうした世界観を実現するためには、ビジネス面、技術面、組織面の3つの観点が重要な要素になります。
ビジネス面ではまずは魅力的なユースケースの創出というのが非常に重要となってきます。技術面では仮想世界のデータを取得してフィードバックする仕組みが重要になりますが、現状そういったものは存在しませんので、これを整備していくことも大切です。ユースケースと仕組みがあればこうした世界観を実現できるかというとそうではなく、実際にこの仕組みを実行・運用していくための豊富なスキルセットを持った人財も必要になってきます。
まだまだ道半ばではありますが、我々はここに魅力や価値を感じていろいろチャレンジをしているところです。
デジタルテクノロジーディレクターグループの取組
最後に我々のメタバース領域、データ活用領域、メタバース×データ活用領域での取り組みについてご紹介します。
デジタルテクノロジーディレクターはお客様企業に対して「新規サービス構想策定」と呼ぶ伴走支援のサービスを提供しておりまして、先端技術を使ってお客様のビジネスを変革していこうという取り組みを行っています。
技術テーマのひとつが、まさしくメタバースの領域です。
新規サービス構想策定の活動プログラムの概要ですが、ビジネステーマを検討するためのインプットとなる勉強会やアイディア創発のワークショップなどがあります。1つポイントとして机上で考えるだけではアイディアのブラッシュアップはできないので、そういったところを打破するためにクイックメタバースプロトタイピングといって、要件やアイディアをもとに2週間程度でクイックに提供するコンテンツもご用意して、お客様の新規サービス構想を形にしていく活動を行っています。
具体例としては勉強会、ワークショップ、クイックメタバースプロトタイピングを1つのパッケージとして2か月間で提供するプログラムを金融業界のお客様に提供し、最終的にはユースケースに基づいたPOCの企画書やソリューションの企画書をアウトプットして具体的な取り組みにつなげていっております。
2か月ほど前になりますが、我々のメタバース×データ活用を掛け合わせた世界観をアピールするためにイベントに出展しました。ライブイベントとそこでのデータ分析を実施して、イベント自体の価値を向上していくユースケースでデモアプリを開発しました。イベントの参加者の行動ログを分析して、参加者の属性に合わせた広告コンテンツを展開したり、参加者が行きたそうな場所を分析してガイドを表示したり、我々の世界観を表現するデモを開発してお見せした実績もあります。
まとめ
まとめとなりますが、メタバースはこれからも魅力的な技術領域であり、その本質的な価値である「参加者の嗜好・行動を理解した最適な体験」が提供できるという点に我々は注目しています。我々はその実現のための世界観としてメタバース×データ活用に向けて活動しています。
ご興味があればぜひ皆さまと一緒にこの世界観を目指していければと思っております。