Event / Seminar イベント・セミナー

ビジネス成果を創出するデータ活用アプローチの両輪とは 受付終了
  • ビジネス

NTT DATA Next Gen Future vol.36

ビジネス成果を創出するデータ活用アプローチの両輪とは

  • オンライン
  • 無料

AIの発展がデータ活用の幅を広げ、広範な領域にわたりビジネスへの貢献度を飛躍的に高めている。しかし、AIを単に導入しただけではビジネス課題を解決できないケースがある。多くの場合、ビジネス価値創出に適した分析手法や技術を見極められていないことが要因として挙げられる。 本講演では、実際のビジネス課題を解決するために統計解析を活用した事例を紹介する。

このような方におすすめ

  • データ活用をしているが現場のなぜに答えられていない方

NTTデータ デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部 佐藤 新

研究開発部門にて、統計解析技術を中心としたデータ分析に長年従事。現在は、統計解析だけでなくAIやデータサイエンスの活用を軸にお客様課題を解決し、ビジネス成果創出を実現。案件を通じた特許などの技術開発やソリューション開発なども実施。

セミナーレポート

AIのビジネスへの適用領域の拡大

本日はデータ活用によるビジネス創出の案件を2つご紹介します。その前にAIが今、ビジネスにどのように適用領域を拡大しているかについて簡単にご説明します。
まずAIは機能的な観点から汎用型と特化型に分けられます。汎用型AIは質問や要望に対して人間のように返答するなど、特定の分野や領域に限定されずに幅広い領域での活躍が期待されています。例えば会話生成AIではChatGPTなどがあり、考察や知識を要する会話も高度に実現することができ、テキストの要約、アイディアの提案、小説の作成、ブレインストーミングなどの使い方があります。また画像生成AIの例としてはStable Diffusionがあり、文による指示で画像の生成や漫画などの作成も可能になっています。

スライド1.jpeg

一方で特化型AIは「予測」「識別」「分類」「実行」など、実施する処理を絞ることで高い精度を発揮できることが特徴となっています。予測を例にとると、商品の需要予測、道路状況の渋滞予測、感染症の流行予測といった対象に合わせてAIを最適化することで、より一層精度を高めることができるようになりました。

スライド2.jpeg

AIの急速な発展によってデータドリブンアプローチが可能になり、これまでの経験や勘だけに頼った意思決定から、AIの発展によりデータを根拠にしたデータドリブンによる意思決定が可能になってきています。そこから多くのビジネス成果を生み出せるようになり、AI 有用性が認識されるとともにAIの適用領域がますます拡大しています。
AIの急速な発展によってデータドリブンアプローチが大きな成果をもたらせるようになった理由は、AIを活用することで複雑なデータ構造や大規模なデータに対応可能になり、優れた予測性能を発揮できるようになったからです。こうして優れた予測性能により大きな成果をもたらすAI は今後もますます適用領域を拡大していくでしょう。

スライド3.jpeg

データドリブンアプローチによるビジネス課題解決の限界

ここまでAIの発展と有用性についてご説明してきましたが、では現実にAIは万能でしょうか? AIを活用したデータドリブンアプローチなら必ずビジネス課題を解決し成果をあげているか、というと必ずしもそうではありません。
ここでは弊社の過去事例から、単なるAI導入では本質的なビジネス課題の解決には至らなかった事例を2つほどご紹介します。

1.Case1:設備故障の早期復旧
1つ目は設備故障の早期復旧という事例です。お客様の業務は屋外設備のインフラ提供で、社会インフラを支えるという業務上、設備故障時にできるだけ早く復旧するというのがミッションとなっておりました。
そこでAIモデルを構築して天候情報などを特徴量として、各地にある設備の故障数を、例えば北海道の石狩エリアや九州の長崎エリアでは通常より多くの故障が見込まれる、といったようにエリアごとに予測していました。近年の台風、ゲリラ豪雨、竜巻など災害の激甚化や頻発化により故障の規模が大規模化していることを背景に、早期復旧するために事前に故障数を予測しておくことが必要となっていたからです。

スライド4.jpeg


どうなったかと言いますと、確かに設備故障の早期復旧は実現できましたが、現場では問題がありました。
AIの活用により故障数の予測はそれなりの精度が出ており問題はありませんでしたが、現場からは問題が2つあがっていました。
1つ目の問題が予測結果の根拠情報の不足、2つ目の問題はデータが少ないエリアでは稀に実際の故障数と大きく乖離した予測が出ていました。そのため現場では予測結果に対する納得感が低く、不信感が高い状態になっていました。
1つ目の予測結果の根拠情報の不足ですが、その原因は、複雑なAIモデルを使用しているため、どの特徴量が予測に影響を及ぼしたのか判断できなかったことにあります。ある地域で通常時と比較して非常に大きい予測値が出たとして、現場としてはなぜその予測値になったのか理由を知りたいのに、それが分からなかったわけです。
2つ目のデータが少ないエリアの精度が低いという問題の要因は、学習データのみに過剰適合するという「過学習」により、未知のデータに対しての精度が低く予測が大きく外れるというものでした。どちらも現場としては使いにくい状態だったと言えます。

スライド5.jpeg

この問題をどのように解決していったかと言いますと、この事例では複雑なAIモデルではなく、回帰分析などのシンプルなモデルを採用しました。シンプルな回帰分析であれば、数理モデルなどをよくご存じない方でも理解が容易ですので、予測値の解釈や根拠が現場でもできるようになりました。過学習の問題に対しても、異常値や外れ値などに気をつける必要はあるものの、シンプルな回帰分析のモデルは比較的過学習しにくいという特徴があります。
これによって予測結果に対して現場の理解度が深まり、納得感が醸成され、現場でのデータ活用につながることになりました。

2.Case2:不良品の削減
次は不良品の削減の事例になります。お客様はある完成品の部品を製造しておられましたが、この部品は非常に高価なため、歩留まりの向上を狙って不良品の削減がミッションとなっていました。
そこでAIモデルを構築し、切削の速度や熱といった加工情報などを特徴量として仕掛品の判別を行っていました。もう少し詳しく説明しますと、この部品はいくつかの加工工程を経て完成するのですが、そのまま加工を続けると不良品になる可能性の高い仕掛品を判別し、この仕掛品に現場の熟練者が修正を加えることによって不良品にならないようにして歩留まり向上を実現しました。

スライド6.jpeg

この事例も、AI による仕掛品の判別はそれなりの精度が出ており、問題はありませんでした。しかし実際の工場の現場では問題がありました。1点目は判別結果の根拠情報の不足、もうひとつの問題は不良原因の特定に時間がかかってしまうということでした。
原因を見てみますと、こちらもやはり複雑なAIモデルを使用しているため、どの特徴量が判別に影響を及ぼしたのか判断できなかったことが挙げられます。そしてどの特徴量が影響したのか分からないため、どの加工工程に問題があるのかも判断できない状況になっており、現場としては使いにくい状態だったと言えます。
この事例でも、複雑なAIモデルではなく判別分析などのシンプルなモデルを採用することで、なぜこの判別となったのかの解釈が現場でもできるようになりました。
効果として、結果に対する現場の理解度が深まりました。加えて現場で絶大な影響力を持つ熟練工の方々の賛同も得ることができました。不良品の削減にも成功し、問題となる加工工程の改善にもつながり歩留まり改善につながっていきました。

追加_36.pptx.png

どちらの事例においても、さらなる改善に向けての精度の維持と向上はさらに進めていくことになりますが、Case1 のように気候変動によって学習データの傾向が変化する場合などは、同質の学習データを大量に蓄積できないため、継続して回帰分析などを使用していくことになります。この場合は、予測モデルの精度は常にモニタリングして、劣化が認められたら再度モデルを構築するなどの対処が必要になってきます。
一方で、データの特徴が大きく変わらない状態で大量に蓄積が可能な場合は、現場との合意形成を経て、より精度をあげるためにAIモデルに変更するという手段もあります。

まとめ

先にご紹介した2つの事例で、なぜ初期段階でビジネス成果が創出できなかったのか? それはどちらも単純にAIを活用しただけで現場が求めていた予測や判別の結果の「なぜ?」に答える手法や技術がなかった、つまりビジネスドリブンな考え方ができていなかったからです。
ビジネス成果を創出するためには、データドリブンな考え方で進めてきた取り組みを、いったん立ち止まってビジネスドリブンの面からも捉え直すことが重要になると思います。
今回ご紹介した事例では、現場の人たちがモデルや結果に対して解釈できるような手法を選択しています。予測や判別の精度だけが求められている状況でしたら、データドリブン偏重でも問題なかったかもしれません。しかし現場では精度以外のものも求められていましたので、ビジネス観点とデータ観点の両方から手法や技術の有効性を見極めて使い分けることが重要となります。

スライド8.jpeg

ビジネスドリブンアプローチが必要な案件は、現場の「なぜ?」に答える必要がある場合です。具体的には意思決定者や現場に対する説明責任と、データの因果関係やメカニズムの背景理解が求められる案件になります。もし似たような案件でうまくいっていない場合は、いったん立ち止まってビジネスドリブンで捉え直してみてはいかがでしょうか。

スライド9.jpeg


またご質問がありましたので近年話題となっておりますXAIについても補足説明をいたします。XAIは説明可能なAIというもので、AI が導き出した答えに対して、人間が納得できる根拠を示すための技術です。今回ご紹介した事例は少し前のもので、この頃はXAIは未熟な部分もありましたので、回帰分析モデルや判別モデルを使って、特徴量が分かることに重点を置いたものとなっております。XAIが今後より進化していけば、現場の理解も必要ではありますがAIモデル+XAIで解決していくことは十分可能になっていくと思います。

Related events

過去のセミナー

セミナーレポート一覧へ