1.環境変化
まず2020年と2023年の事業リスクを比較してご覧いただきます。
2020年はパンデミックとそれに伴う貿易制限の不確実性や原材料や部品の不足がランクインしています。それが2023年では、原材料費高騰に伴う物価上昇、為替の変動、米欧景気の原則、ウクライナ危機が上位となっています。事業リスクが刻々と変化しているということが見て取れます。そして事業リスクは今後も増加していくと考えられます。
続いてサスナビリティの動向ですが、企業の皆様ではCFP可視化などの気候変動分野への取り組みも始めておられると思います。欧州を中心に法規制が進んでおり、取引先として選び続けられるためにはサステナビリティへの
対応は経営の必須事項になっています。
加えて生物多様性や自然資本分野の機運も高まりつつあり、開示要求の可能性が高まっています。
例えば調達品が森林の違法伐採、水の汚染、人権を侵害した労働などによって調達されていないことを担保する必要性が高まってきています。
そのため今後の対応としては、新たに整備されるであろう法規制に追随しつつ、収益性をはじめとする経済活動との両立をはかることが重要と考えます。
2.環境変化から見る今後の可能性
これらのリスクについてはサプライチェーンの川上である調達領域での対応が必要と考えています。具体的に弊社が考える方向性としては3つあります。
1つ目はサステナブル調達です。今回のメインテーマでもあります。
取引先や消費者へ商品を届ける安定供給、インシデント発生時の対応力強化、環境法規制への対応、拠点・ルートのリスクの把握とサプライチェーンの複線化が重要だと考えています。
2つ目がS&OPとサステナビリティの融合です。
3つ目がリスクを捉えた収益観点の意思決定です。
サステナブル調達にフォーカスしなければならない根拠としては、製造企業様からのアンケート回答データから、原材料費の高騰はサプライチェーンの課題と認識しておられ、海外調達先の分散や多様化といった調達領域での課題解決に取り組む事例が最も多いことが上げられます。
またカーボンニュートラルによる事業への影響に、サプライチェーン全体で対応しようとされていること、さらには調達難や調達コストの課題が昨年から増えていることも、サステナブル調達が必要とされているというトレンドを裏付けるものだと考えております。
3.弊社が考えるあるべき姿
下にあるのは、実際にある企業様向けに、NTTデータが提案した経営アジェンダです。
ある化学業界のトップランナー企業様の経営層に提示して、おおむね理解をいただき、認識の齟齬はないと回答をいただいた内容になっています。
収益性拡大、安定供給、サステナビリティへの対応が経営アジェンダとなっています。
特に調達領域の施策は多く、自社のみでの解決が難しく、サプライヤーや外注先といった他社を巻き込まないと解決できない施策が並んでいます。ここからも経営層はサプライチェーン上流での解決期待値が高く、サステナブル調達に取り組みたいと考えておられることが分かるかと思います。
こうした背景から、サプライチェーンのあるべき姿を図示したものが下のスライドになります。
自社からサプライヤーまで横の連携をつげること、そして予算、GHG排出計画などのサステナブル計画、そしてS&OPやERP領域を縦につなぐことが重要だと考えております。需給変動が川上まで伝播し、例えばサプライヤーのインシデントを早期に検知し、影響を予測ベースで伝達できることで意思決定の速度が上がると考えています。
また縦の繋がりにより、計画を現場まで一貫性を持って伝えることで、現場指示への反映と実績から事業の着地見込みを見通し、予算達成に向けてどの程度頑張らないといけないのかが分かるようになります。
こうした世界観を実現することが、サプライチェーンのあるべき姿だと考えております。
4.事例・サービス紹介
実際にサステナブル調達プロジェクトを実行した弊社お客様事例をご紹介します。
こちらのお客様はパンデミック・エネルギー/原材料高騰・武力衝突といったサプライチェーンリスクの高まりに加え、環境・人権といった新たな社会価値への対応の必要性から、今の仕組みのままではリスク管理や複雑化するサプライチェーンの管理が限界を迎えていると認識されておられました。
またこうした環境変化への対応をサプライヤーにもお願いする必要があり、それによるサプライヤーの疲弊や離脱が想定され、サプライチェーン全体のコストが高まるのではないかとも懸念されておられました。
そこで副社長のトップダウンで、サステナブル調達プロジェクトを発足させました。
取り組みの多くは自社とサプライヤーの接点領域にあります。
規制対応、原産地証明、FDAの査察対応状、人権デューデリジェンス結果をサプライヤーとデータ共有する仕組みの構築を実施しています。
また経済的な観点では、原材料費高騰による調達コストの把握に加え、インシデント発生による代替調達や代替品調達をした場合のコストを、年間通して利益が出るかという事業着手シミュレーションと紐付けて判断できるようになっています。さらに1次サプライヤーのみならず2次サプライヤー以降も紐付けて管理し、それぞれのサプライヤーの評価を実施しています。
重要な拠点や海外の重要輸送ルートを定義して、そのリスク可視化、あるいはインシデント発生時にはどの拠点に影響があるかを紐づけて把握できるようにして、影響のある品目や納期について即座に判断できる仕組みを構築しています。
システム構成面で注目すべきは、自社のグループ会社のみならずサプライヤーを参画させた点にあります。サプライヤーに対して「共存共栄」を掲げて協力を仰ぎ、参画を実現させています。
リスクについては、サプライヤーと自社との間で日々共有する需給データに基づく「日常的なリスク」、サプライヤーが被災した場合などに代替品手配や代替サプライヤーを選ぶ「突発的リスク」、今後の環境法規制といった「将来的なリスク」に対応するのに必要な情報を入力させるようなプラットフォームの実現を目指して構築をされています。
この情報基盤によって獲得できた効果についてご紹介します。
効果の1つ目としては「サプライチェーンリスクの可視化」があげられます。
リスクを事前に定義・可視化することによって、社内でもリスク検討を促進させるという効果が出てきており、さらにはリスク評価によって意思決定の迅速化が可能になりました。
2つ目の効果は「サプライヤーとの共有管理基盤」ができたことです。相互にデータを連携することで、今後も変化・増大する規制や環境対応に、機動的に対応できる仕組みを構築しています。
3つ目は「インシデント影響の可視化」です。1次サプライヤーだけでなく2次3次といったN次サプライヤーへの紐付けを行い、地震やパンデミックといったインシデント発生時には自動でサプライヤー含めた影響拠点へ自動で連絡が行くという機能を構築しており、初動対応力を上げています。
4つ目が「事業影響シミュレーション」です。インシデント発生時の代替地や代替品目を事前に定義することで、切り替え判断の材料と社会的責任である安定供給の確保を両立することが可能になっています。
このようにサステナブル調達に真正面から取り込まれているお客様がいらっしゃって、機運が高まっていると弊社自身も感じております。こうした対応がさまざまな業界や企業様に広がっていくと考えられますので、その時はぜひ弊社にお声かけください。
また弊社では本日ご紹介したサステナブル調達以外にもS&OPとサステナビリティの融合や、リスクを捉えた収益観点の意思決定などについてもコンサルティングサービスを提供しておりますので、ご興味ございましたらお声かけいただければと思います。