1.なぜ今SXが求められているのか
SXとは「Sustainability Transformation(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」の略です。
経産省の伊藤レポート(「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」では、SXは社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革となっています。
なぜ今SXが必要なのかというと、伊藤レポートでも語られている通り、近年の外部環境の変化によって社会のサステリビリティを企業の経営に盛り込むことがこれからの働き方の本流になるとも言われているからです。
マイケル・ポーターの「Creating Shared Value(共同価値の創造)」でも近しいことを言っています。CSVと略されることも多いのですが、企業が本業を通じて社会価値の解決を図ることで結果として経済価値を生み出すという考え方になっています。
※経産省 「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220831004/20220831004.html
SXを実行していく上での難所は3つあります。
まず1つ目は、そもそもどのように取り組めばいいかわからないということ。
2つ目は、サステナブルとイノベーションを長期目線で考えることの難しさ。
3つ目は、多岐にわたるステークホルダーとの対話。その結果としての落としどころの見極めの難しさ。
この3つをどのようにクリアしていくかがSXを成功に導くための秘訣だと考えています。
ここで参考にSX とDX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の違いもお話ししておきますと、定義によりますとDXとGXはSXの中の一部と位置づけられていて、SXを実行するうえではDXもGXも取り組むべきだとされています。
また社会のサステナビリティ、社会的価値とは何かについては、社会へのインパクトとここでは定義づけます。企業の事業や活動の結果として生じた社会的・環境的な変化や効果といったものです。
例えば当社の例であれば、当社の事業を重要性の評価から9つのマテリアルを設定しており、これらの課題を解決した結果の、社会的・環境的なインパクトが社会的価値となります。
もう1つの経済的価値は、シンプルに事業価値と捉えることができます。
こうした「社会的価値」と「経済的価値」をトレードオフではなく、トレードオンを行っていくこと。すなわち意思決定おいてどちらかを選ぶのではなく、両方とも取る方法を模索していくことが、SXです。
2.サステナビリティ×デザイン
ここで言うサステナビリティデザインとは、SXを推進するための手段であり、社会的・持続的な提供価値と企業の事業活動を同時に実現するためのデザインアプローチのことを言います。私たちは先にあげたSXの3つの難所を越えていくにはデザインというものが必要不可欠であると考えています。
理由は大きく2つあって、1つはステークホルダーとの共創です。従業員、役員、株主、エンドユーザーなど多種多様なステークホルダーと対話しながら、目的や取り組み内容を同じ方向に足並みを揃えていくには、デザインが有効なアプローチだと考えております。
もう1つは、枠組みにとらわれない柔軟な発想です。デザインというものに含まれるポジティブさを活かして、楽しさや嬉しさを問い直すことで得られる発想の転換、しがらみや利害関係を排除した最適な枠組を再定義するなど、デザインという手法を使うことで、多種多様なステークホルダーと対話を重ねながら楽しさや嬉しさを問い続け、最適な形にすることができると考えています。
3.SX/CSVの成功事例
SXの具体的な成功事例をいくつかご紹介します。
例えばユニリバー様ですと、サステナビリティを暮らしの “あたりまえ”にというパーパスを掲げながら、気候変動へのアクション、自然の保護と再生、ゴミのない世界などを効果としてアウトカムとして達成され、かつ成長率も高いという素晴らしい実績を残しています。社会的価値と経済価値の両方を実現している企業となっています。
キリン様もCSV(Creating Shared Value)に力を入れておられ、持続的に存続・成長していくうえでの重要なテーマを設定されています。例えば健康領域に貢献する商品の開発・販売、および健康機能素材をアプローチする国数を増加させることで、健康や未病領域セルフケア支援と事業拡大を同時に実現しておられるのが非常に印象的です。
山口産業様という革のメーカーの例もご紹介します。「やさしい革の約束」を提唱して、目標と結びつく活動によって環境・社会・経済が共に発展し、差別のない社会にするということを掲げておられます。革をなめす工程で通常製法ですと有害物質が発生するところを、独自製法を使って有害物質が発生しない形にしたことが評価され、世界有数のファッション企業からピッグスキン・サプライヤーとして選定されました。イノベーションによって収益増、つまり社会的価値と経済的価値の両方が実現できた例になります。
MARUHISA様は、会社規模はさほど大きくありませんがアパレルメーカーさんで、バングラディシュとの架け橋として文化・経済の活性化を目指しておられます。高い離職率や出勤時間のばらつきによる生産ラインの低効率、不衛生な食事スタイルによる品質への影響といった多くの課題があったのですが、ひとつひとつ施策を打って解決していきました。結果、生産性向上や品質向上によって単価アップや収益拡大をはかり、同時にバングラディシュの市場拡大や雇用拡大にも寄与するという素晴らしい結果を残しておられます。
最後にご紹介するキミカ様はアルギン酸という、パン製造などに欠かせない素材の世界的パイオニア企業です。アルギン酸は海藻を海から採集してそれを原料にしているのだそうですが、キミカ様では浜に打ち上げられてそのままではゴミになってしまうような海藻をアルギン酸に加工する独自製法を開発されました。結果、海洋ごみ削減によるCO2排出量削減、ゴミになってしまう海藻を使うことによる安定供給が実現しました。こちらも社会的価値と経済的価値の両方を実現した例となります。
これまで紹介した例はいずれも社会的価値と経済的価値をトレードオンして結果的に成長している企業の例です。今後はこうした取り組みが増えてくると考えています。
4.SXを加速するデザインアプローチ
SXを実行するためのプロセスは、グローバルでも各種イニシアチブが定義されており、正直どれを使えばいいのか分からないのが実態だと思います。また国内でも経産省が定義しているSXのフレームワークがありますが、非常にボリュームがあってどこから着手すべきか迷ってしまうのではないかと思います。
そこで私たちではもう少しシンプルなSXデザインアプローチを作成しています。
一番左の企業価値と社会価値の同期のプロセスを経て、ユーザーを理解し、コンセプトを作り、結果をモニタリングしながらPDCAを回して企業を成長させていくというアプローチです。
ひとつずつ簡単に説明しますと、まず企業価値・社会価値の同期のプロセスでは、外部環境や企業の内部環境を分析して取り組むべき重点課題を策定します。SXリサーチとして、業界や事業特性をもとに事例やインパクト評価項目を決定します。出てきた重点課題に、中長期の機会・脅威を特定するために、設定した評価項目と将来のリスクを勘案して重点課題とKPIを策定します。
ユーザーの理解やコンセプトの構築のプロセスでは、実際の施策に落としていく際に、従業員、その会社の商品を使うエンドユーザー、広く外部の専門家などとワークショップを通じて共創して実行プランを練り上げていきます。ユーザーリサーチを行って、従業員や外部専門家をまじえたワークショップを開催しながら施策に落とし込んでいきます。
そして評価とモニタリングのプロセスでは、実行プランを評価モデル検討とKPIモニタリングツールを導入しながら中長期目線でPDCAを回していくお手伝いができると考えています。例えば私たちのGHG排出量可視化プラットフォーム「C-Turtle®」を用いることで、グリーン関連の指標をモニタリングしながらPDCAサイクルを回すということもできるのではないか、と考えています。
SXを企画・実行する上で重要なことは、①経済的価値、社会的価値を踏まえながら重点課題を設定すること②設定した社会的価値の実現方法をステークホルダーが一緒に議論できるコミュニケーションの場を設定③結果がモニタリングされる仕組みづくりの3つです。
こうしたデザインプロセスを実行した結果、ステークホルダーの皆様との対話を通じて納得感を醸成し、ユーザー自身がやりたいと思う気持ちを尊重しながら実行できることで、社会的価値と事業価値の同期が進むのではないか、そう考えています。
5.まとめ
今日、環境の変化やステークホルダーの多様化が進んでいくなかで、本日のテーマであるサステナビリティをはじめ、新しい考え方が経営者の皆様やリーダーの皆様にはますます求められていく時代になっています。私どものノウハウなどを活用しながら本気でサステナブルについて考えていくのは、個人的には非常に「コスパがいい」と思っておりますので、興味やご関心があれば問い合わせいただければと存じます。