-サプライチェーンを取り巻く環境、事例/ソリューション紹介-
株式会社NTTデータ 久保 瑛司
サプライチェーンを取り巻く環境の変化としては、大きく2つの観点から複雑化・不安定化が進んでいます。
1つ目の観点は「リスクの増加」です。コロナ禍における企業活動や顧客の需要な大きな変化、地政学的リスクの増加に伴う原材料の高騰や部品調達の制約、異常気象や自然災害の増加などにより、サプライチェーンのリスクは非常に高まっています。
2つ目の観点は「新たな社会価値への対応」です。カーボンニュートラル社会の実現におけるCO2排出量の可視化、人権問題やリスクへの対応、化学物質の環境規制の強化などの必要性も同様に高まってきております。
こうした複雑化・不安定化するサプライチェーンのなかで企業が安定して事業を行っていくためには、必要なタイミングで必要なヒトが適切な情報を得ることがますます重要になっております。我々としては、エンド・ツー・エンドでのサプライチェーンの情報の可視化と共有化が今後必要とされ、それによってさまざまな企業活動でデータに基づいて意思決定の高度化やスピードアップが可能になると考えています。
具体的にはサプライチェーンの生産計画や在庫アロケーションの最適化を通じたコスト削減、顧客需要の予測や供給リソースの最適化を通じた売上拡大などを通じて、事業損益に関する意思決定に貢献できるのではないかと考えております。またサプライチェーン全体の脱炭素化やガバナンス強化に向けた意思決定にも貢献でき、バリューチェーンにおける利益拡大やESG経営の価値向上にも貢献できると考えています。
エンド・ツー・エンドでのサプライチェーンの情報の可視化・共有化の発展状況ですが、現在では「企業内」での情報の可視化は多くのお客様で既に実現できており、「企業間」の情報収集や連携の実現を目指しているお客様が多いと認識しております。ただし現状では、まだまだ電話、メール、ファイルなどアナログな手段に頼っていて、次のステップとして、デジタルな手法を用いて企業間の情報をステークホルダー間で連携・共有する取り組みが増加しつつあり、そのニーズがますます高まっていくという実感を持っています。
NTTデータでは、これまで製造業、商社、小売業を中心にデジタル連携の実現に向けた支援をさせていただいた実績があります。例えばメーカーとサプライヤー間の情報連携、契約文書のデジタル化、トレーサビリティ、ブロックチェーン、商流・金流のデジタルな手段での可視化連携など、多数のご支援をさせていただいております。
企業間のデジタル連携を実現して実際に課題を解決した事例をご紹介します。
グローバルに事業を展開されている電気機器メーカー様のケースなのですが、サプライヤーの需給データをデジタルな手段で連携し、可視化・共有化を実現した例です。
こちらのお客様の課題としては、サプライヤーさんとの在庫・出荷情報の共有が適切にできておらず、需給調整の際にアナログなコミュニケーションが多く発生して非効率となっているほか、サプライチェーン全体の情報を俯瞰して確認することができず、余剰在庫や品切れの発生が起きるということがありました。
こうした課題に対して、サプライチェーン上の生産や在庫といった需給データを一元的にデータ基盤に連携させることで、本社・工場・100社を超えるサプライヤーとの間で共有・可視化を実現し、需給調整のコミュニケーションの効率化を図りました。需給状況をサプライチェーン全体で俯瞰して見ることが可能になったため、迅速な意思決定をはじめ、在庫の削減や機会損失の回避も実現できた事例となっています。
この課題解決で実施した具体的なソリューションをご紹介します。まず企業間のデジタル連携では複数の企業様やユーザーがさまざまなタイミングでデータ連携や参照が発生しますので、連携データの確認といった前処理や参照時のデータアクセスの制御や開示範囲の設定などが必要となります。そこを我々のデータ基盤ソリューションである「iQuattro®」が担っており、データ連携の実現やデータの正確性や精度を担保しております。
次にこうしたデータの活用では、クラウド型計画実績管理プラットフォームである「Anaplan」を活用し、可視化モデルや計画調整モデルを構築し、企業間での需給バランス、将来の部品在庫の推移、欠品の予兆の把握などの可視化を行い、サプライヤーと工場間の動き調整の効率化を図ってまいりました。
企業間のデジタル連携を実現していく上での課題として、お客様の「プロジェクト推進面」と「ケイパビリティ(実行面)」に大きく分類できると我々は認識しております。
プロジェクト推進面では、デジタル連携という新しいテーマとなりますので、構想の策定やステークホルダーさんの巻き込みといったところに、課題やハードルを感じられているお客様が多いと認識しております。
こうしたハードルの高さに対して、データ連携基盤のiQuattro®とAnaplanの組み合わせは、多くの企業様の課題解決に貢献できると考えています。
弊社は多くのお客様で企業間のデジタル連携に貢献してきた実績、プロジェクト推進面の強み、そして複数企業のデータを繋げて蓄積活用するためのプラットフォームの強みを持っております。また、柔軟な業務設計が必要になる企業間業務において、柔軟な開発が特長であるAnaplanとは、非常に良い組み合わせと考えています。
また、需給の調整に限らずCO2の排出量の可視化やサステナビリティといった社会価値への対応にも、iQuattro®とAnaplanの組み合わせは非常に適したソリューションになると考えております。