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デジタルサプライチェーンの実現に向けた先端技術活用 ~花王はどのようにAIを活用した需要予測に成功したのか~ 受付終了
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NTT DATA Next Gen Future vol.28

デジタルサプライチェーンの実現に向けた先端技術活用 ~花王はどのようにAIを活用した需要予測に成功したのか~

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製造業のサプライチェーンを取り巻く環境は、刻々と変化しています。近年では、生活者ニーズに対応するための少ロット多品種生産や、予測不可能なリスクへの柔軟な対応を可能にする強靭なレジリエンスが求められ、企業はその対応に追われています。 そのような状況では、サプライチェーンの意思決定に関連する組織や業務プロセス、業務ツールの再構築が必要になるとともに、計画の起点となる需要予測の精度向上が鍵となります。 花王株式会社は、AIを活用して新製品の需要予測に取り組み、需要計画の精度を向上させるだけでなく、シナリオベースでの在庫計画につなげることで過剰在庫のリスク評価を可能としました。 本講演では、NTTデータが掲げるデジタルサプライチェーンの世界観やその実現方法とともに、花王株式会社によるAIの成功事例をご紹介します。

このような方におすすめ

  • サプライチェーンの変革に興味のある方
  • 自組織の需要予測に課題をお持ちの方
  • 花王株式会社の需要予測におけるAI活用事例に興味のある方

株式会社NTTデータ  製造ITイノベーション事業本部 第四製造事業部 北川 雅

食品メーカーで需給管理などSCM実務経験を経てNTTデータへ入社。プロセス系製造業のSCM,S&OPプロジェクトにコンサルタントとして従事。顧客課題の深堀~構想策定といった上流フェーズから、業務設計、システム構築、定着まで、お客様のSCM改革を一気通貫で支援している。

花王株式会社 SCM部門デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティスト 石渡 健祐氏

2008年に花王に入社し、ロジスティクス部門にて国内外の物流システム開発やデータ分析に従事。 2020年、技術開発センター先端技術グループに異動、AIなど先端技術のサプライチェーンへの導入を担当。2021年、サプライチェーン全体のDXを促進するためデジタルイノベーションプロジェクトが発足し、現職。 需給計画業務プロセスの核となる需要予測技術の開発、計画系業務を支援するためのシステムの導入に取り組んでいる。

花王株式会社 SCM部門デジタルイノベーションプロジェクト データサイエンティスト 箕輪 映友子氏

2020年花王株式会社入社後、技術開発センターに所属しデータサイエンティストとしてデータ分析を行う。2021年デジタルイノベーションプロジェクトが発足し、異動。 商品特性に応じた予測モデルの開発や需要計画業務のプロセス改善を行っている。

セミナーレポート

サプライチェーンを取り巻く環境変化

NTTデータの北川と申します。私の方からはサプライチェーンを取り巻く環境変化について、そしてNTTデータのレジリエンス強化事例についてご紹介します。
サプライチェーンを取り巻く環境ですが、まずビジネス環境の変化では不確実性の増大をあげることができます。これに対応して、急激な需給の変動に対応できるサプライチェーンの仕組みが求められています。
次に価値観の多様化、スモールマス化の進行も重要です。これまで中心となっていた、周りに追随していくフォロワー層は今日では1割程度まで減少し、一定規模の多種多様な指向の層に分散しています。

こうした目まぐるしいビジネス環境の変化に、これまでのアプローチでは対応しきれなくなっています。複雑化する課題に対して、バリューチェーン全体でのデジタル変革が求められており、サプライチェーンの領域ではレジリエンスやカスタマードリブンへの対応が求められています。海外の先進事例でも、SCMのデジタル化とカスタマードリブンの取り組みは活発化しています。

NTTデータが考えるDigital Supply Chainビジョンは、高度化が進むデジタルワールドと効率化が進むフィジカルワールドが常に連携できるような世界観を想定しています。実際のサプライチェーンのあらゆるデータをデジタル空間に蓄積、活用することでエンド・トゥー・エンドでの高度な分析やシミュレーションが可能になります。そしてその結果を現実世界にリアルタイムにフィードバックしていくような世界観の実現をビジョンとして目指しています。

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【事例】SCMグローバル標準の構築によるレジリエンス強化

レジリエンス強化の例として、NTTデータが実際支援させていただいたSCMグローバル標準の構築によるレジリエンス強化の事例をご紹介します。こちらのお客様では国や部門ごとに部分最適を志向した結果、全体としては非効率なサプライチェーンが問題となっていました。さらに海上輸送の遅れによるデリバリートラブルの多発、それに対する場当たり的な調整業務の増大も課題としてお持ちでした。

NTTデータでは、こうしたお客様の課題に対して、具体的には以下のことを実施しました。
・柔軟な在庫最適配置を実現する組織・業務プロセス構築
・リアルタイム可視化による最適な需給計画立案
・原料調達シミュレーションによる供給リスク低減
このようにSCMの組織の整備、在庫業務プロセスの整備、デジタルを活用して計画の最適化やシミュレーションを行える仕組みづくりなど、構想策定から開発、定着まで一気通貫のサービスを提供いたしました。

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SCMグローバル標準の構築によるリジリエンス強化の事例については以上となります。
次にカスタマードリブンの事例として、花王様より需要予測へのAI活用事例をご紹介いただきます。

花王グループのご紹介

花王株式会社の石渡です。花王は今から136年前の明治20年に創業し、現在3万人を超える社員が働いています。売上は約80%がコンシューマープロダクツ事業と呼ばれるもので、ハイジーン&リビングケア、ヘルス&ビューティーケア、ライフケア、そして化粧品の4つの事業分野で成り立っています。残りの20%がケミカル事業、化学品となっています。

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花王というと国内のイメージを持たれている方が多いかと思いますが、国内の売上が60%ほどで残りの40%が海外で占めており、だいたい100カ国にむけて我々の製品やサービスを提供させていただいております。

花王のサプライチェーン概要

国内のネットワークとしては、国内10工場、物流拠点としてコンシューマープロダクツで30、ケミカルで25の物流拠点を有しており、ここから小売店のお客様やケミカルのお客様に製品をお届けするというサプライチェーンネットワークを構築しています。

SCM部門では「人と社会と地球にやさしい持続可能なサプライチェーンの構築」を目指しています。
私たちが所属しているデジタルイノベーションプロジェクトは、社内DXの推進を担当する部署となっています。データサイエンティストの集結した組織となっており、DX関連のプロジェクトにデータサイエンティストを派遣して社内DXを推進しております。

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さきほどNTTデータ様が紹介されていたデジタルサプライチェーンのビジョンは、まさに私たちが今目指すべきサプライチェーンの姿と同じもので、その実現に向けて、サイバー空間での計画系の高度デジタル化、フィジカル空間での実行系の高度自動化のための技術開発に現在取り組んでいます。今回ご紹介するAIを活用した需要予測は、計画系の高度デジタル化を図るうえで核となる技術であると位置づけております。

デジタルサプライチェーンの実現に向けた需要予測に関する取り組み

需要予測の技術分類は予測のモデルの表現力の観点から3つのレベルに分類できると考えています。

Level 1「人的予測」は事業や営業の担当者がエクセルで管理する標準化されたロジックを持たない予測です。需要予測というものは社会科学的な領域になりますので、こういった予測も意外と侮れないものです。結構な予測精度を持っていると経験則から感じています。

Level 2「統計予測」は統計手法を使用して時系列データを各種の成分に分解し、最終的にはホワイトノイズまで落とし込むことで未来を予測するモデルかなと考えています。一般的に線形モデルとなり、理解しやすくユーザーも受け入れやすいので、我々の会社でもメインで使っています。

Level 3AI予測」は機械学習の予測モデルですが、複雑なデータ型を取り込んで基礎となるようなパターンを機械が学習することで予測するモデルであり、最も表現力の高いモデルかなと考えています。ただ特徴量などのデータの準備ですとか、ロジックがブラックボックス、グレーボックスになってしまいますので、ユーザーに受け入れていただくのが結構難しいという課題も感じています。

予測には万能なモデルというものは現在のところはなく、ビジネスやデータの特性に応じて使い分ける必要があると考えています。

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花王では、商品のライフサイクルに応じた需要予測モデルというものを構築しています。発売前の新製品の初期生産量を決めるために、データロボットを活用して機械学習モデルを開発した事例を弊社の箕輪から報告させていただきます。

花王株式会社の箕輪です。新製品発売前の新製品の予測モデルの概要を下の図に示します。弊社のビジネスプロセスにおいては発売4ヶ月前に発売から3ヶ月間の予測値が必要となっています。そこで発売4ヶ月前の時点で既知の市場情報、広告予定の情報、商品情報などを特徴量とし、約700SKUの過去商品を学習データとしました。それらを「DataRobot」に学習させることで予測値を算出しています。

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DataRobot」は、世界トップレベルのデータサイエンティストの知識や経験が積み込まれていて使いやすく、データの準備から業務実装まで活用できるAIプラットフォームです。今回はモデル生成と評価の部分を「DataRobot」を用いて行いました。

具体的な手順としては、社内データの収集を行い、分析、特徴量作成、モデル作成を行っていきました。「DataRobot」の中で自動的に行える部分も多くありますが、ドメイン知識や社内の事情も絡むため適宜確認してデータのクレンジングを行う必要があります。

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こうした手順のなかでも、精度や業務に落とし込むうえで最も効果的だった適切なターゲット変数の選択について説明します。

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私たちが予測したい数字は販売数量ですが、販売数量を目的変数としても精度向上には限度がありました。そこで、販売数量を1店舗あたりの販売数量と店舗数に分解して考えました。店舗数というのは人の意志や商談の結果などで不確定な要素が多いため、予測が困難であるというのが分かってきました。そこでモデルは1店舗あたりの販売数量を目的変数とし、店舗数は「人の意思を反映する項」としました。その結果、的中率は77%から91%に向上しました。

とはいえ実際にいくつ作るかといった意思決定においては、欠品を恐れるなど人の心理が関わるため、ビジネスプロセスに落とし込むためにはいくつかの工夫が必要です。
1つ目の工夫は過去実績との比較です。予測値、計画値、過去実績値を比較して需要計画精度を向上させようというものです。
2つ目の工夫は予測値を活用した複数のシナリオを立案することです。対応策を事前に決めることができ、業務効率化に寄与することができます。

最後に

最後に花王の石渡から、SCMにおける需要予測業務について重要と思うことを2点お伝えします。
まず需要予測技術開発についてですが、これは予測精度の改善ではなく、経営指標の改善につなげていくことが重要であると考えています。適正在庫、在庫の削減につなげることで会社のEVAROICの改善までつないでいき、改善すべき商品カテゴリーなど効果的な開発が可能になると考えています。
次に、予測の解釈性や透明性も重要です。予測モデルというものは、ビジネスモデルに落とし込んで実際に利用してもらえなければ意味がありません。そこでユーザーに使ってもらうために見える化を重要視しており、エクセルの数字の羅列ではなく、下図のようにユーザーに受け入れやすい形で提供するようにしています。ユーザーからフィードバックを行うことで継続的な予測モデルの改善にも努めています。

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これまでご紹介したように花王ではデジタルサプライチェーンの実現に向けて、AIによる計画系の高度デジタル化を推進しており、なかでも需要予測開発の取り組みとして、新製品の需要予測において「DataRobot」を活用した機械学習の予測モデルを構築して、ビジネスプロセスまで落とし込むことを実現しました。また予測値を「見える化」して解釈性を高めることを重要視しており、ユーザーのフィードバックをもらうことで予測精度の継続的な向上につなげるなどの取り組みを、会社の活動として実施しております。

今回の講演が需要予測に携わっておられる皆様の一助になれば幸いでございます。

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