製薬業界のデジタル化潮流
日本のヘルスケア業界を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。2025年には医療費は50兆円にのぼり、製薬企業の開発成功率が10年間で半減し、その一方でヘルスケア・ライフサイエンス業界ではデジタル活用が22%増加するなど、デジタル活用の機運が高まっています。
デジタル活用が進むグローバル企業の過去10年間の動向を弊社で調べましたところ、DXが進んでいる領域は大きく2つです。1つ目はR&D領域における創薬・研究領域。2つ目は顧客接点領域、すなわち患者さんとの接点、医療従事者との接点領域です。
これらの領域に、ITに強みを持つGAFAなどのメガテックやスタートアップも参入し、デジタル活用による構造変化を加速させています。こうしたデジタルプレーヤーの参入により、業界の連携や競合が加速していくことで、製薬業界のバリューチェーンの再定義が地殻変動のように起こっているのが現状であると認識しています。
NTTデータが考える「医療DXの未来」
こうした環境下でNTTデータは全社的な取り組みとして、生活者のウェルビーイングな世界、Smarter Societyを実現するため、生活者視点に立ち、デジタルを活用した社会全体の新しい仕組みや価値をデザインしています。
NTTデータではこれからの医療DXの方向性を、患者さんを中心とした変革と捉えています。すべての医療プロセスが患者さん価値の向上にむけて高度化する世界観を「MX(メディカルエクスペリエンス)」ととらえ、それを私どもの取り組みのコンセプトとしています。
従来は製薬業界のお客様は医療従事者であったため、患者さんの予防から予後までのペイシェント・ジャーニーと製薬バリューチェーンは分断されていました。これをリアルワールドデータ(RWD)の活用によってつなぎ、創薬・服薬・育薬がシームレスに循環していけるようなMXサイクルの確立を目指していきます。
具体的には患者さんを中心として予防から予後までのそれぞれのタッチポイントでデジタルを活用して医療・健康データを収集し、リアルワールドのデータとして蓄積。そのデータを軸に製薬バリューチェーンのR&D領域で、患者さんにパーソナライズされ、かつ効率的な新薬開発を目指していくのが、医療DX実現のためのMXサイクルであると考えています。
先進事例のご紹介
ここではMXサイクルを実現する先進事例として
(1)リアルワールドデータを利活用するサービス「次世代医療基盤法 千年カルテ」と、千年カルテを活用した新しい取り組み
(2)製薬バリューチェーンにおける業務革新ソリューションである「治験薬剤管理システム」および「ワクチン安全性情報システム」
をご紹介します。
(1)リアルワールドデータ活用:千年カルテ
次世代医療基盤法の元、運営をしている千年カルテは、大学病院などの大規模病院を中心とした医療リアルワールドデータベースであり、5月末現在153万人の医療データが格納されております。
千年カルテの最大の特徴は電子カルテデータによる臨床データの「深さ」を収集し、研究に利活用頂けることです。
・疾患実態調査
・治療の費用対効果
など、従来の医療データよりも深く患者さんの情報を収集することで、
高付加価値なリアルワールドデータベース研究にお役立ていただいております。
そして千年カルテの新しい取り組みとして、千年カルテでも取得することが難しい情報、患者さんの主訴やQOLをePROデータで取得し、千年カルテデータとマージする取り組みを進めています。TTデータが保有する匿名化されていない千年カルテ医療データと、ePROから取得したデータにおいて同一患者さんの情報を連携することで新たなデータベース研究が可能になります。
今後製薬企業様、医療機関様にとってアクセスしやすい仕組みにするために、ePROアプリベンダーさん等と連携してサービスの検討を進め、患者さん中心の医療体験改革の一翼を担っていきたいと考えています。
(2)製薬バリューチェーンにおける業務革新ソリューション
次に業務プロセスにおける先進事例を紹介します。
1つ目が「治験薬剤管理システム」です。
GCPの改正による治験薬剤管理・報告範囲の拡大が、人的リソースの不足や業務工程のオーバーフローという課題に繋がっています。私どもではそのような課題に対し、治験薬剤の情報を一元管理できる治験薬剤管理システムを構築しています。
本システムは、治験薬剤業務に必要なマスタ情報の統合と可視化を実現し、
・治験薬剤に関わる情報収集、入力等の負荷の削減
・部門間での情報連携のスピード向上
・情報のトレーサビリティである監査証跡自動対応
等、増加する治験薬剤管理業務効率化に寄与するソリューションです。
2つ目が「ワクチン安全性情報管理システム」です。
昨今の環境下において、製薬企業はデジタルを活用し医薬品の情報提供や収集の効率化が求められています。
ワクチン製品における市販直後調査、副反応報告という2つの安全性情報管理業務を、MR訪問による情報収集ではなく、医療従事者から当局へ一気通貫で安全性情報の報告が可能なシステムを構築しています。
本システムは、迅速な安全性情報の報告はもちろん、MR報告による情報確認や進捗管理などの業務工数を削減できることでGVP業務の生産性向上に寄与するソリューションです。
上述ご紹介致しました先進的な取り組みでは、ServiceNowという業務プロセスをデジタル化するクラウドサービスを活用しております。ライフサイエンス・ヘルスケア業界を始め、世界の主要業種の企業で幅広く利用されており、日本でも近年急速に導入が増えています。
私どもは製薬業界に関連したインダストリ組織と、このServiceNow等を活用したDX推進のお手伝いをするソリューション・オファリング組織を融合して、お客様のDX変革をサポートしています。
まとめ
NTTデータでは医療DXの方向性において、患者さんを中心とした変革「MX」=すべての医療プロセスが患者さん価値の向上にむけて高度化する世界観をコンセプトとし、製薬業界の構造変化に対応いたします。
具体的には、リアルワールドデータ活用による製品開発力の向上・個別化医療の実現により、日本の医療発展に貢献を目指します。また、ServiceNowの最新のデジタル技術を活用し、ライフサイエンス・ヘルスケア業界における業務プロセス変革という価値も実現しております。
今後も製薬業界はデジタル化の波とともに大きな変革が続いていきます。NTTデータは製薬業界には特に注目しており、これまでの経験と最新のデジタル技術を用いて、お客様のDXを実現する効果的なオファリングを拡充して参ります。